「なぜ座ったら駄目?」立ったままレジ打ちは世界の非常識、流通業界を変えた2万筆の署名
円安効果で外国人観光客がひっきりなしに訪れるディスカウントストア「ドン・キホーテ浅草店」。長蛇の列ができた免税専用レジで店員がいすに腰かけ、大量の商品を袋に詰めていた。ウクライナ国籍だという店員は「母国ではいすに座って接客するのが当たり前だった。日本のスーパーやコンビニで立ったままレジ打ちするのを不思議に思っていた」と職場の変化を歓迎した。 【写真】20年性風俗店を渡り歩いた女性が「業界脱出」に成功できた理由 当初は「どこかに売り飛ばすのではないか」と半信半疑だったが… 韓国の相談所、心のケアや大学進学も支援
この変化のきっかけになった一つとされるのが、スーパーでレジ打ちをしていたアルバイトの学生が運営会社にいすの設置を求め、オンラインで展開した署名活動だ。「足腰に負担がかかるのに、なぜ座ったら駄目なの?」。同じ悩みを抱えるバイトら多くの賛同を集め、署名は2万2千筆を超えた。いすを導入する企業が少しずつ増え、立ったまま接客するのが「常識」だった業界が変わり始めた。(共同通信=高田知佳) ▽ドンキは約20店舗でいすを導入 ドン・キホーテ浅草店の別の店員に聞くと「これまで勤務中はずっと立ち仕事だった。疲労で足がしびれていたが、今は椅子に座って作業ができるため足腰への負担が減り、助かっている」と話した。 いすの導入を進めた担当者も「従業員から勤務中の負担が減ったという声が多く届いている。離職が減ったり、応募が増えたりするとありがたい」と期待を寄せる。ドンキでは約20店舗で店員が座ってレジ打ちするためのいすを導入している。
▽労働安全衛生規則は「いす設置」を明記 オンラインでの署名活動に続き、2024年5月には「首都圏青年ユニオン」(東京)の有志たちが厚生労働省に要請書を手渡した。 メンバーの一人である冨永華衣さん(25)は百貨店で立ち仕事をした経験がある。「顧客への見せ方を気にする仕事でもあり、接客しない時間も立っていなくてはならなかった」と振り返りつつ、「世の中の人たちが立ち仕事を必ず求めるという保守的なものではない」とも強調した。 首都圏青年ユニオンが要請書で求めたのは、厚労省の省令で定められた労働安全衛生規則の周知を徹底することだ。615条には「事業者は、持続的立業に従事する労働者が就業中しばしばすわることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできるいすを備えなければならない」と明記されている。 厚労省は要請を受け、企業や業界団体へのヒアリングを始めた。レジ打ちの業務に限らず、さまざまな業種の事例を集めてホームページで公開する予定だ。