フーディーも注目する魚沼の異色ファミレス、その「尋常ならざる」こだわり
ホールスタッフは「料理の運び屋ではない」
――新潟の飲食店などでは、人手不足が深刻化しているとも聞きます。 小島:現在はパートやアルバイト含め約30人で、高校生から70歳位まで幅広い年齢層が働いています。厨房に関していえば、料理人というとハードルが高いですが、うちは高校からバイトで入って、そのまま就職したキッチンスタッフもすごく多いです。 例えば結婚、出産で働けないシーズンがあっても、落ち着いたらパート制で働いてもらうなど、人生のシーズンに合わせて柔軟に働けるように心がけています。従業員にとっても居心地の良い、優しい会社にしたいですね。 ――キッチンでは、誰でも作れるようにレシピ化することも大事ですよね。 小島:はい。とても大事です。メニュー開発は僕が行いますが、それが本当に10~15分で提供できるレシピであることは大事です。パート・アルバイトなど様々なスタッフが作る事もあるので、どんな方でもきちんと美味しくなるレシピを考え、美味しくなるポイントを伝えることを意識しています。 ――スタッフのおもてなしも素晴らしいとの評判を聞きますが、接客の上で工夫されている点はありますか。 小島:母と妻がホールを管轄していて、母が看板娘のようになっています。ファインダイニングのきりっとしたサービスとは違いますが、家族の温かさを感じられるようなおもてなしを見て、その背中から他のスタッフが学んでいるのかもしれません。 それとホールスタッフに必ず言っているのは、「料理の運び屋ではないよ」ということ。例えば水一つ置くでも、置き方ひとつで印象が全く違います。「美味しい料理を台無しにもすることもあるし、例え料理がいまいちでも、感動させることもできるかもしれない。最後は皆にかかっているんだよ」と常に言っています。 ■人生のオールシーズンに立ち会う「世界で1個の」ファミリーレストラン ――これからも、ファミレスという業態を存続していく予定ですか? 小島:この小玉屋に関しては、家族を料理で幸せにするお店でありたいし、それが地域のためになると思っています。 もちろん、葛藤はあります。僕自身、有名店で料理と真剣に向き合ってきましたが、一皿に人生を注ぐような一皿と、10分で作れる料理ではやはり違います。人気メニューのポテトフライだけを延々と揚げ続けていると、「これでいいのか」と思うこともあります。 でもうちは、結婚の顔合わせからお宮参り、お食い初め、入学式、卒業式、成人式、還暦祝いから法事まで、人生のオールシーズンで使っていただいているファミリーレストランです。「人生の最初から最後まで人を幸せにするお店は、世界で1個しかないかもしれない」―うちに食べにいらした和歌山の「Villa AiDA」の小林寛司シェフにそう評価して頂いたとき、「ファミレスにしかできないことがある」と思えたんです。 ――最後に、今後の目標を教えてください。 小島:何よりお店を続けることが、地域やスタッフのためになると思っています。原材料も上がるなかでメニューの価格も上げる必要があり、それに見合ったクオリティやサービスにしていかないといけない。少しずつ改善していって、「やっぱり小玉屋だな」そういってもらえるように、続けていきたいですね。 ■取材後記: 取材が終わり11時開店前になると、中から元気な唱和が聞こえてきた。 「全てはお客様と私たちの幸福のため、大切な時間をこだわり料理で、皆が一つのテーブルを囲み幸せになれる奇跡のレストラン」。毎日、この経営理念を唱和してから開店するのだという。 店が開くなり続々とお客さんが入り、「天恵菇のお刺身1つ!」「メキシカンライス1つ!」と次々注文が入る。筆者は地場産おつまみセットを注文し、1時間後の新幹線の出発を待つことに。 「頂きまーす!」と元気な子供の声が響く横で、静かにお寿司をつまむ老夫婦……それぞれに食卓を囲む家族の光景を眺めながらの一献が、ひときわ体に染みた。
水上彩