香港映画界の次世代俳優テレンス・ラウが語る、香港No.1ヒット作の魅力
統合失調症の演技が高く評価された映画デビュー作
――去年インタビュー取材を受けてくださったダヨ・ウォンさんも「香港映画祭2024 Making Waves」で来日されましたが、お会いしましたか? ダヨさんとは、昨日ホテルでお会いしました! 舞台をやっていたときは稽古を含めて毎日のようにお会いしていたのですが、今回は6~7年ぶりの再会だったんです。だから、思わずハグしちゃいました(笑)。そして、しばらく立ち話をしていたのですが、映画界での僕の成功をとても喜んでくださいました。いつか、映画でもダヨさんと共演したいです。 ――19年には、『時代革命』のキウィ・チョウ監督が手掛けたラブストーリー『夢の向こうに』(「香港映画祭 2021」にて上映)に主演。総合失調症の青年役を演じられましたが、どのような経緯で出演されたのでしょうか? 先に相手役の女優さんが決まっており、オーディションでは劇中の短いシーンを演じました。そのとき、「総合失調症の方は、他人にそういう病気を患っていることを知られたくないと思って暮らしているのでは?」ということを念頭において演じました。チョウ監督からは後で、「ほかの役者がオーバーに演じるなかで、君だけがごく普通に演じていたから起用しました」と言われました。 ――そんな『夢の向こうに』は、香港でスマッシュヒットを記録。テレンスさん自身も「香港評論学会大賞」で主演男優賞を受賞したほか、さまざまな映画賞で新人賞候補になりました。 これは僕が出演した映画で、初めて劇場公開された作品です。当時はコロナ禍だったこともあり、重苦しい毎日の中で、まるで何かを求めるように映画館に観に来てくださいました。その中には、実際に統合失調症を患っている方もいて、作品に共感してくださったほか、「癒された」「救われた」といった生の声を聞くことができました。そのほか、いろいろな情報を共有することもできました。
“香港の伝説”レスリーを演じたプレッシャーとの戦い
――21年には、人気歌手アニタ・ムイの半生を描いた『アニタ』(ディレクターズ・カットがDISNEY+にて配信)が大ヒット。ここでは、実際にアニタの親友だったレスリー・チャン役を演じました。 『アニタ』の撮影は、『夢の向こうに』よりも前でした。このときもオーディションで選んでいただいたのですが、初めての映画出演で、しかも“香港の伝説”であるスーパースターのレスリーさんを演じるなんて、プレッシャーしかありませんでした。決まってから、ずっと緊張していましたし、どういう準備をしていいのかも分かりませんでした。 ――24年公開の台湾映画『鯨が消えた入り江』(NETFLIXにて配信)も、レスリーと密接な関わりがある作品でしたね。 これも縁なのか、運命なのかもしれません。『アニタ』のときは、リョン・ロクマン監督から「単にモノマネをするだけではいけない」と言われていたのですが、「スーパースターになる前、アイドル時代のレスリーさんは、どんな私生活を送っていたのだろう?」と考えながら、演じていくうちに、少しずつプレッシャーから解放されていきました。 ――これまでのキャリアを振り返ると、生徒の母親と不倫する教諭を演じた台湾映画『トラブル・ガール』(23年・「大阪アジアン映画祭」にて上映)を含め、どこか影のある役柄が多いようにも感じます。 僕自身は「これまで演じてきた役柄によって、どのようなパブリックイメージになっているのか?」といったことを、わざわざ考えたことはありません。ただ、役者として、同じようなイメージが定着してしまうことは、あまりいいことだと思いません。もちろん、仕方がないこともあるでしょう。でも、なるべく殻を破って、できるだけ自由に、柔軟性を持って、いろいろな役柄をやっていきたいと心掛けています。