初の“ファミリー・ポルシェ”登場 ポルシェ復活の物語と「マカン」の戦略
「最量販ポルシェ」目論む
ポルシェ全体のラインナップ側から眺めてみても、ファミリーユースのクルマが不足している。4座のパナメーラは1000万円からと高過ぎ、大きく豪華でカイエン同様やはりプレミアム性が高過ぎる。ボクスター・ケイマンは2人しか乗れない。むしろ一番の万能選手は911なのかも知れないが、リアシートは緊急用レベルだし、こちらも1100万円からと価格が高い。4座の実用的なクルマが足りてないのである。 つまり、マカンとは何かと簡単に言えば、ポルシェが初めてラインナップに加えたファミリーカーであり、アジア戦略車である。「616万のどこがファミリーカーだ」という声が聞こえてきそうだ。確かに筆者も含めてその金額に回れ右する人が大部分だろう。しかしクルマに600万円を払う層は確実にいる。 都内のスーパーの駐車場で見かけるベンツのEクラスやBMWの5シリーズはほぼ同価格帯からの値付けになっているし、塾や幼稚園のお迎えで見かけるX3あたりもグレードによっては600万円。アルファードだって600万円どころか900万円もするモデルはあるのだ。とりあえず価格的にはある種の人にとっては特別な金額では無いということだ。 そしてそういう金額のものを買う客の方が面倒でない。薄利多売に踏み込むとサービス体制が持久戦の様相になる。金を払わずに文句を言うクレーマーまがいの客の相手をするよりも、厚い利益をもたらす層に限ってビジネスをした方が賢明だ。そもそも今のポルシェの販売拠点体制でトヨタと戦う薄利多売の販売政策など成り立つはずもない。敵を知り己を知れば……ではないが、マカンは実に上手いところを突いてきたのである。 戦略の見事さはそれだけではない。マカンと戦うサイズのSUVにはスポーツ性に特化したモデルはまだない。BMW X-3やアウディQ5だってもちろんスポーツ性は謳っているが、ポルシェの技術的信用度を持ってこのマーケットに乗りこめば「やっぱりポルシェ」と言う人がでてくることは容易に想像できる。実車も見ない予約注文で1500台がはけたという点から見ても、そのポルシェ・ブランドの信頼度の高さはよく解る。あとはそれを裏切らない製品を出せれば次もブランド指名購入は継続する。 ポルシェが目論んでいるのは「最量販ポルシェ」である。例えば国内マーケットを見た時、もはや年間販売5000台は完全に射程に入っている。その前の目標値は年間4000台だった。おそらく次の目標は6000台ということになるだろうが、ここに予約注文で1500台売れるクルマが加わるわけだ。何と言う恐ろしい勝率だろうか。ポルシェのファミリーカー。冗談めいたその言葉にポルシェはニヤリともしていない。本当に本気なのだ。 (池田直渡・モータージャーナル)