なぜ「子持ち様」はドイツにいないのか? (東福まりこ キャリアコンサルタント)
■休むのが「毎回女性」だからおかしなことになる
もう少しマクロの視点で見てみると、日本の職場で子持ち様現象が起きているもう一つの大きな理由として、男女の賃金格差と固定的性別役割分担意識がある。 「子持ち様」といったとき、それはほとんどの場合女性(母親)である。それは育休・時短勤務・急な子どもの病気での看病を引き受けるのが多くの場合女性だからだ。 論争の発端となった投稿には「また急に休んだ」とあった。「頻繁に休む」という部分も不満の一つなのだ。これも、家庭のなかで夫と妻のどちらが休むかとなったときに、毎回妻が休むために、職場単位で見れば「また休んだ」ということになると考えられる。 夫と妻で休みを分担していれば妻の負担、ひいては妻の同僚の負担も半分になるから、このような不満は起きにくいだろう。 なぜ、毎回妻が休むことになるかというと、そこには「家庭のことは女性が」という固定的性別役割分担意識と男女の賃金格差がある。 2023年の日本の男女間賃金格差は男性(正社員・正職員)を100とした場合の女性(正社員・正職員)の賃金は77.5であった(令和5年厚生労働省賃金構造基本統計調査)。 男女格差を表す指標「イコール・ペイ・デー」によれば、日本の女性が男性と同じ年収額を稼ぐには、年をまたいで4月28日まで117日も追加で働く必要がある (参照・「男女の賃金格差、117日も女性が余分に働かないと男性並みにならない日本の現実」 読売新聞オンライン 2024/03/08)。 家庭単位でみれば、育休・時短勤務による収入減のインパクトを少なくするために、収入の少ない妻に育児の負担が偏るのは当然だ。男女賃金格差の縮小が進めば、夫と妻で仕事のセーブ・育児を分担できるようになる。育休や時短で収入が減る子育て世帯への金銭的サポートも必要だ。
■子持ち様論争をきっかけに、日本企業が変わらないとまずい理由
ここまで、子持ち様という現象が起こる大きな理由として「メンバーシップ型雇用」と「子育て負担の女性社員への偏り」を挙げた。 しかし、これらへの対策を進めることは、子持ち様以上に深刻な問題の対策にもつながる。 それは労働人口の減少で、「大卒者の2022年問題(2022年を境に大卒者の人数が減少に転じる問題)」で初任給の引き上げが相次いでいることからも明らかだ (参照・「大卒初任給3.9%増は30年ぶりのアップ幅、給料の「横並び一律」主義は崩れたのか」 ダイヤモンドオンライン 2024/05/09)。 今、政府が少子化対策をして効果があったとしても、労働人口に反映されるのは15年後(労働人口は15歳から算入される)。だとすれば、それまでの労働人口の減少を補うには、女性の就労を増やし、外国人労働者を雇うしかない。 円安で日本での就労が魅力的でないなか、日本独特のメンバーシップ雇用・年功序列に固執していては、外国人労働者を増やすことはできない。 また、現状のように女性社員に子育ての負担が偏り、本人、さらにその周囲の社員にしわ寄せがくるようでは到底女性が働きやすいとはいえない。 今回の子持ち様論争を契機に、日本企業のダイバーシティを真剣に考えなければ、今後の労働人口減少にもますます対応できなくなるだろう。 職場における子持ち様論争、および労働人口の減少に対する根本的な解決は、メンバーシップ雇用・年功序列といった日本独特の雇用慣習を世界標準に改め、男女の賃金格差を縮小し、職場のダイバーシティを実現することにある。今後の政府・企業の動きを注視したい。 東福まりこ キャリアコンサルタント
【プロフィール】
自身のアドバイスで友人が転職に成功したことをきっかけに、キャリアの見直しワークショップを開始。過去の転職経験や海外勤務経験をベースにアドバイスを提供中(国内大手1社・外資系2社、ドイツ赴任1年)。現在はマンツーマン形式でキャリア相談を行う。「転職」ではなく定期的な「転職活動」で市場価値を知るべき、が持論。飼いネコに構ってもらいながら働く日常を送る。