なぜ「子持ち様」はドイツにいないのか? (東福まりこ キャリアコンサルタント)
■「担当者不在で担当者以外に仕事をさせようとするのが日本人の悪いクセ」
ちなみに、ドイツ系の日本法人という特性上、ドイツ人と日本人の「担当者不在」に対する意識の違いを感じる場面に何度か出くわしたこともある。 たとえばドイツ赴任中、同僚から「明日から休暇に入る。留守番電話をセットしてあるので自分の電話が鳴っても絶対に出るな。出たところであなたに対応はできないし責任も持てないのだから」と念押しされた。 彼は日本の担当者と同室だったため、日本人の「担当不在の時には同じ課の同僚が代わりに業務をこなす」慣習を知っており、私が勝手に仕事をしてしまうのではないかと心配したようなのだ。 また部署異動の際、別の日本担当のドイツ人に挨拶に行ったときのことだ。彼と同室の人の名前も知っていたため「〇〇さん!前任者からお名前は伺っております」と挨拶したところ、「日本人の悪いクセで、日本担当がいない時に担当じゃない自分に仕事をさせようとする(だから自分の名前を知っているのだろう)から」とチクリと言われた。 担当者不在の時、同じ課の同僚が代わりをつとめてくれると考えるのは日本人にとっては普通だが、これはドイツでは通用しない。
■不在者のフォローも事前に決められた業務
「不在の人の仕事を同僚が代わりにやることはない」と述べた。日本人としては「そうは言ってもどうしても対応しなければならない場合があるのでは?」という疑問がわく。 実はドイツでも、同僚が代わりに業務をするケースはある。 私が勤めていた企業の本社では、課員の中で2名ずつのペアが決められており、その2名は同時に休暇をとらない。誰が代わりを務めるかをその時になって判断するのではなく、代理役は当初から決めてあるのだ。 部下なしの担当者たちを束ねているのをマネージャー、そのまた上司をゼネラルマネージャーとすると、「ゼネラルマネージャー以上の管理職からリクエストがあった時」に限り、担当者が不在であればペアの片方が代理で業務をする。 理由はシンプルで、ゼネラルマネージャーのリクエストとなれば会社にとって重要な案件で至急対応する必要があるからだ。だからトップダウンの仕事はストップしない。 代わりを務めるペアが誰であるかは従業員データベースに記載されていて、日本の現地子会社からもアクセスできる。ペアが代わりを務めるのは「ゼネラルマネージャー以上からのリクエストに限られる」のをほとんどの日本人は知らず、私も担当者不在の時、ペアの片方に仕事を依頼してことごとく断られた。 2週間以上も前に休暇を知らせているにもかかわらず、担当者の休暇中に連絡してきて、たまたま電話をとった同僚にごり押しして仕事させようとする日本の現地子会社を本社のドイツ人は理解できなかっただろう。 このように、一人一人の業務内容が明確で、不在者のフォローもあらかじめ業務として定められ(当然、評価の対象になる)、気遣い・マナー・寛容性といった要素に頼らない仕組みがジョブ型雇用だ。