インドネシアで影絵芝居になった桃太郎(後編)
「ジャワの文化を見直した」という現地の声
桃ではなくかぼちゃにしたのも、今回の農業をテーマにした物語に合わせるため、ジャワには生えていない桃の代用として選んだという。他にも、筆者からの質問に対して明確に、かつ熱をもって回答をしてくれた。そこまでの思い入れをもってこのプロジェクトに参加してくれたとは思わなかったし、ちょっと想定通りに進まなかっただけで彼らの思いを汲み取れなかった自分が情けなかった。 若いメンバーも、確かに現地にはあまりないストーリー展開ではあるが、非常に面白いと言ってくれた。彼らがつまらないと言うならば話は別だが、面白いと言ってくれるならば自分が反対することは何もない。結局、台本には一切の変更を加えずに、このままやることにした。 こうして、冒頭の12月24日を迎えた。インドネシアの若者たちの気合の入れようは格別で、全員が伝統衣装であるバティックを着て登場した。ワヤンの上映前には、ジョグジャカルタ州の伝統音楽のパフォーマンス、日本の茶道と現地のジャワ王室茶道の交流や、筆者も話す機会を頂いたトークショーも行われた。会場前には出店も並び、1日で2000人近くの来場者があったようである。 メインであるワヤンのパフォーマンスは、非常に素晴らしいものだった。ジャワ語によるパフォーマンスなので、筆者は台詞をほとんど理解することができなかったが、エコ氏の人形捌きはもちろんのこと、ガムランの奏者もぴったりの息遣いで必要な音を届けている。準備していた200席は満員で、現地人の観覧者からは、時折笑いや掛け声が上がっていた。昔、インドの映画館で映画を見たことがあるが、面白いシーンでは歓声が上がるなど、おとなしく静かに見る日本のスタイルとはかけ離れていたのを思い出した。 終了後のアンケートを見てみると、日本の文化に興味が出た、日本の物語は面白かった、という感想の中に、ジャワの文化を見直すきっかけになった、ジャワの文化を好きになれた、といったコメントもあったのが嬉しかった。日本の物語をどう海外に伝えるかというテーマを超えて、普段は伝統文化なんて素通りしてしまう地元の人たちが、ワヤンに代表されるジャワ文化のすばらしさに気づいてくれたのかもしれない。色々と苦労はあったが、本当にやってよかった。