「英国」を大阪に伝えて半世紀超 阪急百貨店、本物にこだわるフェア 日本語禁止の催しも 昭和100年だヨ!全品集合 阪急百貨店編
■悔しさをバネに
阪急は関西の百貨店。細見さんは「東京の数寄屋橋店は規模も小さいし、忘れられていたかもしれません」と分析した。
だが、「阪急百貨店」としては黙って見過ごすわけにはいかない。急遽(きゅうきょ)、野田社長が英国大使館へ赴き、「阪急もお忘れなく。なんでも商品は買い取ります。ウチにもぜひ、マーガレット王女を…」と懇願したという。英国側も熱意にうたれ、「東京を離れる日の午前中なら」と王女のスケジュールを調整した。だが…。
「その日は阪急の定休日だったんです。野田社長は数寄屋橋店の社員に頭を下げ、組合とも交渉し、定休日に店を開けてフェアを開催。なんとか王女をお迎えすることができた。でも、準備不足だったので、展覧会は英国の観光写真展のようなものにならざるを得なかったんです」
その悔しさが45年、大阪梅田本店での華やかな初開催につながったのである。
■ティールーム忠実に再現
企画運営を担当した桑原さんが注目したのは英国の「食」。とはいえ英国の食べ物は「まずい」というのが定評だった。
「でも、食がないと催しは楽しくないんですよ。だから必死に探しました。英国でおいしいといわれている食は何か―と」
そして見つけたのが「紅茶」だった。桑原さんは英国中の「おいしい紅茶を飲ませる店」を探し回り、そして「ここだ!」と決めるとその「ティールーム」ごと日本に持ってきた。店の外観から椅子、テーブル。そして店のオーナーを招いて英国文化である「アフタヌーンティー」の楽しみ方を伝授してもらった。
細見さんはいう。
「ただ単に、紅茶を飲ませるのではなく、阪急さんはティールームを日本で忠実に再現した。だから長年英国に住んでいたという人がみな、懐かしさを求めて来られるんです」
お客さんたちは口々に「このフェアに来ると本物の英国がある」と話した。
桑原さんは「それが最高のお褒めの言葉です」と目を細めた。
さて、細見さんをご紹介しよう。長年、兵庫・尼崎市立尼崎高の教員(世界史)を務める。59歳のとき夫婦で欧州旅行。そこで同級生に出合い「最近は定年で仕事をやめた人が、大学院でたくさん学んでいる」という話を聞く。するとその日の夜、「自分が学生になった夢」を見た。