池上彰氏が予測する「10年後の未来」 給料が上昇する人・しない人を分けるものは?
「常識はずれ」にチャンスがある
NHKを辞めたあと、テレビ朝日から、ニュースをわかりやすく解説する番組に出てほしいと声が掛かりました。その時は、ちょうどイランの大統領選挙があり、イラン全体が大混乱していたタイミングでした。 私は現地に取材に行ったことがありますから、「イランがどういう国かを含めて大統領選挙について取り上げましょう」と提案したら、スタッフ全員の後ずさりの音が聞こえるぐらいに引かれました(笑)。そんな国を取り上げたって見向きもされない、というのが当時の常識だったのです。 しかし私は、視聴者がイランに関心がないわけではなく、テレビがわかりやすい取り上げ方をしてこなかったのが原因だと考えていました。そこで、イスラム教には宗派があり、イランはシーア派であることや、大統領の上に最高指導者という存在がいることなどを謎解きのように解説したところ、視聴者の反応は上々で、高視聴率も取れたのです。 それがきっかけで各局がニュース解説の価値に気づき、ゴールデンタイムでもこぞって番組を組むようになりました。今ではワイドショーでも国際ニュースをしっかり取り上げるようになっているのは、皆さんもご存じのことかと思います。 自分ならではの専門性=自分の武器に磨きをかけていけば、やがて常識に対して違和感を覚えることが出てくるはずです。その違和感を無視しないで、常識に反してでも思い切って実行してみる。それも自分らしい未来を創造する方法の一つだと思います。
これからの時代の年長者の役割とは
中高年以上の読者の中には、時代の変化や最近の若者の感覚についていけないと感じている人もいるかもしれません。私もテレビで芸能人の方々を相手にニュースの解説をやり始めた当初は、想像以上に色んなことを知らない方もいて、びっくりしたものです。 しかし、やがて考えを改めました。相手が知らないのではなく、「自分が、『相手が知らない』ということを知らなかった」のです。そう考えれば、自分よりも知識を持たない人からも気づきを得ることができますし、若い世代の常識や考え方から学ぶ姿勢もできてきます。 上から目線で自分の常識を押しつけてくる人は、若者に限らず誰だって嫌なものです。反対に、謙虚な姿勢で教えてほしいと言ってくる相手は、若者だって嫌な気はしません。そうやって、まずは年長者のほうから若者の話に耳を傾けることで、新しい発見があるはずです。 先日、私は教え子の大学生から、「何かを調べる時は、Googleは使わずにYouTubeで検索する」という話を聞きました。Google検索で出てくる文章を読むよりも、YouTubeで誰かが解説している動画を観たほうがわかりやすいのだそうです。倍速で動画を観るのも面倒な時は、InstagramやTikTokで検索すると言っていました。これは私にはまったくなかった発想なので、非常に新鮮でした。 「自分の会社の人間とだけつきあっていると発想が凝り固まるから、積極的に社外の人脈を築け」とは昔からよく言われますが、それに加えて、自分と異なる世代、特に自分よりもずっと若い世代の話を聞く機会を、積極的に作ることが大切だと思います。 お子さんが高校生、大学生くらいなら、ぜひ話を聞かせてもらいましょう。そうでない人でも、職場にアルバイトの大学生がいるなら、お茶でもご馳走して、彼ら・彼女らの考えや感覚を聞かせてもらうべきです。 私も「こどもニュース」を担当していた時には、アルバイトの大学生に解説を聞いてもらって、わかりやすいかどうか意見をもらっていました。そうして若者の感覚や意見を尊重し、自分が知らない情報や考えを得ることで、固くなった頭をほぐすことができます。 私が講演会などで話すと、若い学生から「池上さん、これからの未来はどうなりますか?」と質問されることがあります。いやいや、70歳を過ぎた人間に若者のあなたが聞いてどうするんだと(笑)。 私は自分の過去の経験の延長線上でしか考えることができませんが、若者は経験がないぶん、より柔軟に考えることができます。それは、自由に未来を創れるということです。 若者が持つそうした力を認めたうえでそれを引き出し、そこから学ぼうとすることが、これからの年長者が持つべき姿勢でしょう。