池上彰氏が予測する「10年後の未来」 給料が上昇する人・しない人を分けるものは?
「自分の武器」は今の仕事にある
明るい未来もあり得るとはいえ、今後もすべての人が仕事に就けて、みんなの給料が上昇し続ける、といった未来を実現するのはなかなか難しいと思います。これからの未来の姿は、社会全体が同じ方向に進むのではなく、人によって明るい未来もあれば暗い未来もあると、個別化していくのかもしれません。 その明暗を分けるものは何かというと、仕事に限って言うなら、社会から必要とされる存在でいられるかどうかだと思います。そうした存在でいるためには、何をもって社会の役に立つことができるのか、「自分の武器」を見つけることが必要です。 私自身がそれを意識し始めたのは、NHKで記者からキャスターに転じた頃でした。番組で他の記者が書いた原稿を読むようになったのですが、まず感じたのは、「なんてわかりにくいんだ!」ということでした。内容は正確でも、視聴者目線に立っていないため、言いたいことが伝わってこないのです。 経済部に「もっとわかりやすい原稿にしてほしい」と言ったら、向こうは「わからないのはお前がバカだからだ」と言い出す始末。専門家はその専門性ゆえに「『わからない』ことがわからない」。そこで、自分でわかりやすくしようと奮闘を始めたところ、「もしかしたら自分には、人にわかりやすく伝える力があるのかもしれない」という気づきがあったのです。 そうして「もっとわかりやすく」と連呼しているうちに、始めることになったのが、「週刊こどもニュース」でした。私がキャスターを兼ねた「お父さん」役で登場し、話題のニュースを子どもたちに説明するという内容で、NHKにとっても私にとっても、挑戦的な番組でした。子どもが相手だからこそ、ニュースの本質をつかみ、それをわかりやすい表現で伝える必要がある。日々、勉強と工夫の連続でした。 アニメーションや解説のフリップなど、見せ方も「わかりやすさ」にこだわったこの番組は評判になり、その後15年以上続きました。この番組を作り上げた経験が、私の「わかりやすく伝える」という武器を鍛えることになりました。 この私の能力は、結果としてたどりついたもので、初めから身につけようと意識していたものではありません。ただ一つ言えるのは、その時その時の仕事に向き合って、おかしいと感じたことはおかしいと言い、どうやったらより良くできるかを考えて、自分にできることに取り組んできた、ということです。 もし「自分の武器の見つけ方」があるとしたら、それは人に教わるものではなく、今、目の前にある仕事に真剣に向き合うことで、自分自身が気づくものではないかと思います。