マイナ保険証へ「一本化」は“医療の質の低下”と“税金の無駄遣い”を招く? 専門家が警鐘…“現場”で続発する「不都合な事態」とは
市区町村の事務負担が過大に
上記を前提として、まず、マイナ保険証への一本化に際しては、市区町村の事務負担が過大になることが指摘された。 まず、マイナ保険証への一本化に際しては、住民は以下の3通りに分けられる。 ①マイナンバーカードを保有し、健康保険証を紐づけている住民 ②マイナンバーカードを保有しているが、健康保険証を紐づけていない住民 ③マイナンバーカードを保有していない住民 このうち、①マイナンバーカードを保有し、健康保険証を紐づけている住民に対しては、自身が加入する健康保険に関する情報が記載された「資格情報のお知らせ」が送られる。 これに対し、②マイナンバーカードに健康保険証を紐づけていない住民、③マイナンバーカードを保有していない住民には「資格確認証」が郵送される。 しかし、市区町村がこれを行うには、まず、住民一人ひとりについて、①に該当するのか、②③に該当するのかの選別作業を行わざるを得ない。 また、①の住民についても、マイナ保険証の有効期間や電子証明書の失効期間を把握しなければならない。 これらの事務負担が大きな負担になるとの指摘がなされた。 元総務官僚でもある長野県飯山市の江沢岸生(きしお)市長は憂慮を示す。 江沢市長(長野県飯山市):「現場では、12月からの資格認定証の発行に向けて、システム改修を行っている。 次々と内容が変わり、国から大量の情報が来るので、職員はその対応にも多くの時間と労力を費やしており、疲弊している」
「切り替え」で使えないタイミングも
また、東京都世田谷区の保坂展人(のぶと)区長は、マイナ保険証のしくみだと、転職・退職等に伴う健康保険の「切り替え」の際に、被保険者に不利益が生じることを指摘した。 たとえば以下のような場合、新しい資格情報が『オンライン資格確認等システム』に反映されるまでには必ずタイムラグが生じる。 ・転職に伴い従前の社保から新しい社保に切り替わる場合 ・脱サラにより社保から国保に切り替わる場合 ・転居により市町村国保が切り替わる場合 切り替えの手続きが終了していない段階では、マイナ保険証では受診できないことになる。なお、このことは国が発行した資料にも記載されている。 保坂区長(東京都世田谷区):「登録データが関係機関に連携されるまで一定の時間を要するため、情報はリアルタイムで更新されない。 特に、社保と国保の間の変更の場合、データの連携が滞ることが起こりうる。 医療機関等の窓口でマイナ保険証が読み取れない場合、『被保険者資格申立書』を記入して提出すれば保険適用時と同じように受診できる。 しかし、患者側と医療機関等の側の両方に負荷がかかる」 補足すると、「被保険者資格申立書」は、マイナ保険証でオンライン資格確認を行えなかった場合に記入する書類である。患者の側では資格情報を「資格情報のお知らせ」の紙で確認し、記入しなければならない。 いうまでもないが、現行の健康保険証ではこのような問題は起きない。健康保険の切り替えがあったときは、新たに発行された健康保険証を窓口に提示すれば済む。 しかも、「被保険者資格申立書」は自己申告なので、「一本化」を推進する立場から強調される「なりすまし受診」のリスクを排除できない。