イタリア人はフランス産ワインを飲まない!? 「サイゼリヤ完全攻略マニュアル」のマッシが解説する、イタリア人とワインの関係性とは?
多様性と地域との繋がりが、イタリアワインの成功の秘密。
ワインの魅力は単なる味の評価だけではないと感じているイタリア人にとって、ワインは消費食品ではなく、生きる情熱の源となり、自分たちのアイデンティティを守る手段でもある。そしてワインに対しての向き合い方と感覚は、年齢によって変化する。18歳から34歳の若者たちは、ワインを社交の場での飲み物として捉え、友人との集まりや外食の時に楽しむ傾向が強い。一方、35歳から64歳の中年層は、家族や友人との食事の時にワインをともにすることを好み、より伝統的な飲み方をする傾向が見られる。 興味深いことに、多くのイタリア人にとって、ワインを選ぶことは単なる消費行動ではなく、感情的な体験とアモーレで行うことが多い。新しいワインを試すことや、ワインを通して自分自身を発見することなど、ワインは人々に多様な喜びをもたらす。そして、フランスワインとの大きな違いがどこにあるかというと、その多様性と地域との繋がりにある。これは同時に、イタリアワインの成功の秘密だ。イタリア人とワインの関係が深くておもしろいと思う瞬間は、海外で現地のスーパーに地元のワインを発見すると、喜ぶだけではなく自慢まですること。海外にいることを忘れることさえある。 ワイン産地でとれる食材とその郷土料理は密接に結びついている。たとえば、ピエモンテ料理にシチリアの白ワインを出してしまうと、現地の人たちには受け入れられない可能性が高い。料理とワインは最高の仲間になるか、最強の敵になるか。ワインの共通点で仲良くなるイタリア人がいれば、ワインで文句と戦いが始まるイタリア人もいるほどだ。せっかくおいしい料理と素晴らしいワインを味わえるのに、食材と味のことを考えずに組み合わせてしまったら胸が痛む。そして、食卓に隠れている楽しさもなくなる。
僕の故郷であるピエモンテ州モンフェッラート地方は、爽やかな丘にどこまでもブドウ畑が広がっている。ワイナリーがたくさんあって試食や見学、イベントの体験から購入までできる。実際にワインを造っているワイナリーと仲良くなると、さらに地元愛が膨らむ。子どもの時からのこの風景がより親しいものになる。 ちなみに、モンフェッラートで生産されるワインの量は年間でおよそ650万本だ。もし日本でピエモンテ産のワインを見たら、僕は必ずラベルを読むことにしている。故郷に近づけば近づくほど、テンション上がるというピエモンテラバーのピエモンテ人なのだ。 日本人もイタリア人のように、ワインとより深い関係を造って、より楽しい時間を過ごせるようになってくればうれしい。 マッシ:1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)