アマゾン・アップル…元社員が告白する「買わせる仕組み」。年末年始に観たいNetflix人気映画
ニューヨークで私が住んでいるアパートは、玄関に24時間「ドアマン」と呼ばれる男性たちがいて、ガードマン的な役割を果たすとともに、日中配達された荷物を預かってくれる。いちおう荷物が一時的に保管される小部屋が受付デスクの後ろにあるのだが、このスペースだけではとても収まらず、溢れた段ボール箱は、いつもロビーに積み上げられている。365日、常にだ。 【全画像をみる】アマゾン・アップル…元社員が告白する「買わせる仕組み」。年末年始に観たいNetflix人気映画 そして、この段ボールの山が、一年で一番すさまじい量に膨れ上がるのが、11月末の感謝祭翌日の「ブラック・フライデー」からクリスマスまでの1カ月間だ。これは、日本でいうところの新年初売りに匹敵するもので、ギフトを贈りあう時期でもあり、この期間にどのくらいモノが売れたかが、その年のホリデー景気を示すものとなる。 この時期は、街を歩いていても、トラックから積み下ろされた箱の山がアパート前の道路に高く積み上げられている光景が日常的だ。私の住むアパートでも、ロビーは日頃にも増して段ボールで溢れ返り、箱のタワーがいくつもできている中からドアマンたちが荷物を探してくれる。 このアパートは、1990年代にできたものだが、アマゾンその他のオンライン・ショッピングが今ほど定着するまでは、ロビーの風景はこうではなかったはずだ。
アマゾン、アップル…過去の罪を告白するような元社員たち
Netflix のドキュメンタリー作品「今すぐ購入:購買意欲はこうして操られる(原題:Buy Now: The Shopping Conspiracy)」は、アマゾン、アップル、アディダス、ユニリーバといった大企業がどのように「買わせる仕組み」を設計し、消費者の欲を巧みに操作し、過剰消費につなげているかを教えてくれる。それによっていかに企業が儲け、環境が破壊されているかということも。 ガイドを務めるのは、これら大企業でそのカラクリを設計してきた元社員たちだ。デザインやコミュニケーションのプロ、エンジニアといった役割から、どうしたら人々に「もっと欲しい」「この商品を買うことが自分にとって必要なことだ」と思わせられるかを考え抜いてきた人たちだ。消費者が購買までに超えなくてはならないハードルをいかに取り除き、いかに素早く多くのクリックを生むかということを日々考え、それによって大きな報酬を得てきた。 そして、作品に登場するこれらのプロたちは、どこかの段階で夢から覚めた人たちでもある。自分がいかに無駄な消費を生むことに加担してきたか、自分がプロモートしてきたブランドが実はまったくサステナブルではなく、社会や環境を傷つけながら利益を得ているか、ということに気づいてしまい、会社を辞めた人たちだからだ。過去の罪を告白する人のような、後悔にみちた彼らの表情と言葉は、生々しく、説得力がある 作品に登場するこれらの人々の多くが、大企業を去った後、これまでの罪滅ぼしをするかのように180度転換し、サステイナビリティのために仕事をしているのも興味深い。仕事は報酬のためにやるもので、その内容が倫理的だろうがなかろうが関係ないと割り切る人もいるかもしれない。 でも、そのように自分の良心に反したことを見て見ぬふりする行為自体が、多くの人間にとっては持続不可能なものなのではないだろうか。タバコ会社やエネルギー会社、最近だとフェイスブックの元社員が「Whistle-blower(内部告発者)」となり、会社の内幕を暴露するケースがあるが、仕事とはいえ、長期間にわたって、自分の良心に逆らった行為を続けていけば、たいがいの人間はそれに徐々に蝕まれ、やがて耐えられなくなる。 NASAを訪れたケネディ大統領が、清掃員に「あなたの仕事は何ですか」と訊ねたら、「私は、人類を宇宙に送るための仕事をしています」と答えたという有名な話がある。人間には、パーパスと、仕事を通じた誇りが必要なのだ。結局のところ、私たちの多くは、仕事を通して世の中をより良くしたいと願っているし、人間は、金銭の報酬はさておき、自分が信じられる何かのために貢献していると感じたい生き物なのだと思う。