アマゾン・アップル…元社員が告白する「買わせる仕組み」。年末年始に観たいNetflix人気映画
ホラー映画さながらの演出
「今すぐ購入」では、消費者としての我々が日ごろ感じている漠然とした疑問、無節操に怠惰に便利さに甘える罪悪感を、厳しく目の前に突き付けてくる。埋め込まれているメッセージは、説教臭いと言えなくもないはずなのだが、作り方の巧みさで、それがまったく説教臭くは思えず、今起きていることをとてもリアルに、淡々と、ビジュアルに、ロジカルに伝えてくる。 たとえば、この作品によれば、世界中で毎時間製造される靴は250万足、スマホは毎時間7万台弱、衣服は一分当たり19万着が製造されているという。ただ、数字だけでは、それがいったいどんな量なのか想像がつかないだろう。この作品はそれをビジュアルで見せてくれる。 ありとあらゆる製品がマンホールから溢れかえり、天から降り注ぎ、ゴミの山が膨れ上がり、森をなぎ倒し、海や地面を侵食していく様子は、まるで人間を襲う生き物のようで、ホラー映画さながらの不気味さがある。こんなことを続けていたら地球が耐えられるはずがない、今止めないと大変なことになる……という危機感が、理屈ではなく感覚として伝わってくる。これを見て恐らく多くの人が反射的に感じるのは、「こんなに多くのモノが人類に必要なわけがない」ということだ。 私たちはほとんどの必要なものを既に持っている。それでも買ってしまうのは、それらが必要だからではなく、何かを買うことによって引き起こされる一種の「ハイ」、ストレスの軽減(「やけ買い」)、衝動買いの際に発生するセロトニン(幸せホルモン)に対する一種の中毒症状のせいなのだと思う。この作品を見て、私たち消費者は、そのことにもっと自覚的にならなくてはいけないはずだと感じた。
カートに入れて一晩寝かせる
作品冒頭には、アマゾンに創業初期から長く務め、注文画面のデザインをしていた女性が登場し、「1 Clickボタン(日本では「今すぐ買う」ボタン)」は「ジェフ・ベゾス自らが考えた天才的なアイデアだった」と話す。カートに入れて精算する手間をすっ飛ばし、たった一度のクリックでモノが買えてしまう。こんな便利なシステムは、アマゾンの前には存在しなかった。 それを、ユーザー・フレンドリーと捉えることももちろんできる。すべての手間を省き、一刻も早く商品をお届けします!という効率的なシステム。しかし、これは、見方を変えれば、考える暇や迷う隙をいっさい与えないシステム、消費者に冷静な判断力を失わせる罠とも言える。 彼女が作品の中で言っていたアドバイスは興味深かった。1 Click を極力使わないようにしてみろというのだ。欲しいと思うものがあったら、とりあえずカートに入れ、しばらく放っておく。翌日以降、またカートを見て、まだ欲しいと思うなら、そのとき買えばいいというのだ。私もこれはよくやる。しばらくしてからカートを見て「こんなもの入れてたっけ?」と削除することもしばしばだ。 この方法は有効だとは思うが、消費者がこうして賢くなってしまうことは、企業からしたら単なる迷惑である。よって、いくつかの衣料品メーカーはその対抗策を打ち出している。カートに入れたものが限られた時間(15分とか)しかキープできないという、時間制限システムだ。「今買わないと、なくなってしまいますよ」「欲しい人は他にもいるんですよ」と、客を焦らせるわけだ。「あと1点!」などというサインも同様の効果があると思うが、「今だけ」「限定」「残りわずか」という言葉に乗せられてしまう消費者は決して少なくないだろう。でもそこで立ち止まって「本当にこれが必要なんだっけ?」と考える冷静さを、私たち一人ひとりが身につけないといけないのだと思う。