アマゾン・アップル…元社員が告白する「買わせる仕組み」。年末年始に観たいNetflix人気映画
バッテリー交換の高いハードル
アップルは、数年ごとに、前のバージョンより少しだけグレードの高い新しい型のiPhoneを発売する。プラグの形を変えたり、イヤフォンのプラグ自体を取り除くことで無理やりAirPods(ワイヤレスのイヤフォン)を買わせようとしたりという強引なこともしばしば行う。 私などは、AirPodsは音質はいいけども、常に充電していないといけないので面倒に感じ、アナログなイヤフォンのほうが好きだったりするのだが、そういう客は、常に更なる利便性とデザイン上のスマートさを求めるアップル信者の中ではマイノリティかもしれない。 また、アップル製品の多く(iPhoneも、AirPodsも)は、基本的にバッテリーの修理・交換を前提に作られていない。修理は不可能ではないが、バッテリーさえ取り換えればまだ十分使えるはずのものでも、新品を買った方が安かったりするので、多くの消費者はつい新品を買ってしまう。その結果、事実上、バッテリーの寿命が製品の寿命になっている。 バッテリーの摩耗に限らず、これは、古くは電球を作る会社や衣料メーカー含め、さまざまな企業が取り入れている手法だ。商品を長持ちさせないための、消耗カラクリを最初から仕込んでおくのだ。「今すぐ購入」の中には、iPhoneはじめ、修理を前提に作られていない製品も含め、なんでも直してみせます!という修理業者の男性も登場する。 メーカーの仕事は商品を売るところまでであって、売る行為によって生じたゴミがどうなるか、売られたものが最終的にどう廃棄されるかは、現状のルールの下では、企業の責任とはみなされていない。でも、それで本当にいいのだろうか。彼らは、商品を生み出すだけ生み出して利益を得ているのに、生んだモノがリサイクル不可能であろうが、環境を汚染しようが関係ないということにしてしまって良いのだろうか。彼らには、もっと厳しくアカウンタビリティが求められるべきではないのか。 最近では、アマゾンのような企業も従業員たちの要求から、サステイナビリティに対して以前よりは行動するようになっているが、そのうちどれほどが根本的な問題の解決につながっているか、単なるグリーン・ウォッシュになってはいないか、消費者はもっと知る権利があるだろう。場合によっては、もっとボイコットなども行うべきかもしれない。 「今すぐ購入」 を見ながら、私はハーバードのケネディ・スクールにいた頃にとったある授業のことを思い出していた。「Strategic Corporate Citizenship」というコースで、企業の社会的責任について考えるものだった。授業はケーススタディ形式で、実在する企業が過去に経験した岐路について、「自分が担当者だったらどうしたか」という観点から意見を出し合う。 このコースが変わっていたのは、メンバーの構成だ。クラスの半分がビジネス・スクールの学生、半分がケネディ・スクールの学生というつくりにわざとしていたのだ。要は、クラスの半分は、カネの世界で生きてきた、卒業後はおそらく起業家や経営者になる、いつもボトムライン(当期純利益)やブランド価値のことばかり考えている学生たち。もう半分は、いつも「公益とは」「倫理的リーダーシップとは」などと理想主義的なことばかり語り合っており、将来は政治、政策関係、NGOなど公的な分野で仕事をしていこうと思っている学生たち。 営利目線と、非営利目線を持つこれら二つのグループは、一つのケースを読むのにも、面白いほどまったく違う読み方をする。発言の内容だけで、その人がビジネス・スクールの学生か、ケネディの学生か、即分かるという感じだった。おかげで、自分自身のバイアスに気が付くことにもなったし、「反対側」の論理も垣間見ることができ、とてもいい勉強になった。このような教育の場は、本当はもっとあるべきだろう。 経営者たちが他のすべてを無視し、短期的な利益の最大化だけを考えているような社会は、彼らがどんなに頭が良かろうが、長続きするはずがない。 渡邊裕子:ニューヨーク在住。ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修了。ニューヨークのジャパン・ソサエティーで各種シンポジウム、人物交流などを企画運営。地政学リスク分析の米コンサルティング会社ユーラシア・グループで日本担当ディレクターを務める。2017年7月退社、11月までアドバイザー。約1年間の自主休業(サバティカル)を経て、2019年から、マクロ経済・地政学コンサルティング会社Greenmantle のシニア・アドバイザーはじめ、複数の企業の日本戦略アドバイザー。執筆活動も行う。2022年から、サイボウズ株式会社社外取締役。X(旧Twitter)は YukoWatanabe @ywny
渡邊裕子