安易にアンダーハンドではなく、できるだけオーバーハンドで アタッカーのため、自分本位を捨てて上げ続けたトス
超えるべき好敵手 西日本強豪の東亜大
初戦は関西学院大学に勝利し、2回戦でぶつかった東亜大は西日本インカレ準優勝の強豪だ。下級生の頃から出場し続けてきた4年生が中心のチームで、多彩な攻撃陣がそろい、優勝候補の1つに挙げられる。超えるべき壁として、まさに絶好の相手でもあった。 さらに田中自身に目を向ければもう一つ、特別な感情もあった。東亜大のエース柳北悠李(4年、東福岡)は高校時代に公式戦や練習試合で数え切れないほど対戦してきた相手だ。 「またここで当たるのか、やめてくれよ、と思ったのが本音です」と言って笑うが、アタッカー柳北の力を誰より知っている。だからこそ絶対に勝ちたい。その姿勢をコートで体現することが、自分にできることだと信じてコートを走り回った。
フルセットの末に敗退
2対2で迎えた最終セット。1対4と先行される展開を招いたが、堤だけでなくミドルブロッカーの小用竜生(3年、駿台学園)や渡邊太崇(1年、東北)を効果的に使い、サイドから木下柊人(3年、東京学館新潟)、源河朝陽(2年、西原)の攻撃も織り交ぜ7対9と2点差まで追い上げる。しかし馬力で勝った東亜大は柳北のサービスエースで突き放し、最後も柳北のバックアタックが決まり10対15。フルセットの末に敗れた東京学芸大の選手たちは、ゲームセットの瞬間コートに倒れ込み、悔しさをかみ締めた。 熱戦の余韻(よいん)が残るコートの隅で、髙橋宏文監督が4年生を労う。最後に4年生たちが後輩に向け「勝たせられなくて申し訳なかった」「ついてきてくれてありがとう」と涙ながらに言葉を発すると、田中も堪えきれずに何度も何度もユニフォームで涙を拭う。 「2部落ちして、つらい思いをしたところから這(は)い上がって迎えた大会なので、勝つ気しかなかったし、勝てる自信しかなかった。でも『勝ちたい』だけじゃ足りませんでした」 東京学芸大に入学した当初は、バレーボールに対する臨み方や意識の違いにギャップを感じたことに加え、コロナ禍で満足な練習すらままならず「1年の頃はバレー以外にも目が行っていた」と振り返る。だが、そんな自分を見捨てることも見限ることもなく、髙橋監督や同期の仲間たちが4年間で進むべき方向性を何度も何度も、それこそ「口うるさく言い続けてくれた」から、頑張り切ることができた。