安易にアンダーハンドではなく、できるだけオーバーハンドで アタッカーのため、自分本位を捨てて上げ続けたトス
丁寧なトスでチームメイトを引き立てる
それでも、経験を重ね、技術をつければアタッカーを決めさせるトスが上げられるようになる。自分本位ではなく、周りを活かすためのトスワークが少しずつ身につくと、セッターは苦しいだけでなく楽しいポジションだと改めて感じられる試合も増えた。まさにその成果を発揮するとばかりに東京学芸大に入学後も、上背がなくてもアタッカーが助走して高い打点で打てるよう丁寧に、高さや速さを織り交ぜたトスでチームメイトを引き立てた。 今季は下級生主体のチームの中で、コートに立つ4年生は田中だけだったが、それぞれの個性を活かすべく、誰よりもコートの中で走り回ってボールをつなぐ。相手のサーブで崩されたり、ラリー中に返球が乱れたりした時も、安易にアンダーハンドでトスにするのではなく、少しでもアタッカーが打ちやすいように、とボールの下に潜り込んでオーバーハンドでトスを上げる。何気ないことのように見えるが、豊富な運動量と技術がなければできないもの。 苦しい時こそ自分がサボらず、仲間を活かす。セッターとして大切な“心”は、「すべて出し切る」と決めた最後の全日本インカレでも、随所で発揮されていた。 言葉にせずとも、田中がつなぐ1本1本に、勝利への意志が込められていた。 何が何でも勝ちたい理由もあったからだ。
勝つ喜びと降格の悔しさを味わった最後のシーズン
大学最後のシーズンを振り返れば、東日本インカレでは4位と躍進。勝つことの喜びを知る一方で、春季リーグは11位に沈み国士舘大学に敗れ、2部降格という悔しさも味わった。自身以外のレギュラーメンバーは下級生。このまま2部でスタートさせるわけにはいかない、と秋季リーグを制し、日大との入れ替え戦はフルセットの末に勝利し、1部昇格を果たした。 最低限の目標はクリアできたが、それだけで「これから」につなげたとは到底思わない。後輩たちのために、そして4年間を共に戦ってきた同期の仲間たちや応援してくれる人たち。何より、自分自身のために大きな壁を乗り越えたい。