これから不可欠となるのは「データのポジティブエコシステム」か?: 電通 のデータ部門リーダーに聞く、ポストCookie時代の考え方
2020年から数えると、3度目の延期となったChromeのサードパーティCookie廃止。それぞれの立場によって受け止め方に差はあるが、個人情報を守ろうとする流れが不可逆であることに異論を唱える人はいないだろう。 これから不可欠となるのは「データのポジティブエコシステム」か?: 電通 のデータ部門リーダーに聞く、ポストCookie時代の考え方 またしても完全廃止まで猶予を与えられた形となるが、このあいだに生成AIが大幅に進化するなど、デジタル環境は予想を上回るスピードで日々変化している。そんな状況において、データが健全に活用されるデジタルエコシステムを実現するため、いま一度見直すべきポイントは何か? 国内電通グループ約150社で構成されるdentsu Japan全体のデータ戦略やソリューション開発を手がける電通のデータ・テクノロジーセンターでセンター長を務める濱口洋史氏、そして電通デジタルでデータソリューションの企画・開発とともにクライアントの戦略プランニングや実行にも向き合うストラテジー部門 部門長エグゼクティブコンサルティングディレクター、杉本晃一氏の両者に、DIGIDAY[日本版]編集長の分島翔平がポストCookie時代の考え方を聞いた。 ◆ ◆ ◆
投資の対象は、従来のフロー型からストック型へ
分島翔平(以下、分島):Googleから延期が発表されたことをどう受け止めましたか? 濱口洋史(以下、濱口):個人データを安全に管理することと、広告も含めたデジタルエコシステムがうまく回っていくこと、この2つをうまく調整しながら廃止に向けて動いているわけですから、当然の動きと理解しています。ややもすると世の中全体のサードパーティCookieが一気に廃止されるかのようなイメージで捉えている方もいますが、延期になったのはChromeだけで、Safariではすでに起きていることです。 生活者にきちんと理解をしていただいたうえでデータを取得し、活用することが1丁目1番地であることはクライアントのみなさんも認識されているので、然るべき時に備えて今やるべきことをやっておくべきと思っています。 濱口 洋史/株式会社 電通 データ・テクノロジーセンター長。行動データ(購買行動データ、ウェブ回遊データなど)をベースとしたデータエコシステムを構築し、PDCAを実施しながらソリューションの改善を行っていく専門家で、電通の社内ソリューションPeople Driven DMPを開発・運用する現場責任者。電通ジャパン全体のデータ戦略とともに、データパートナーとのアライアンスを通じて、新しいソリューションの開発にも従事。工学修士(金融工学専攻)、個人情報保護士。 分島:Cookieレスのデジタル環境はどうなるとお考えでしょうか。 濱口:今後のデータマーケティングはPII(Personally Identifiable Information)と呼ばれる名前やメールアドレスなど、個人情報により近いものがベースになって進んでいく可能性が高いと考えています。生活者はどの会社に自分のメールアドレスや電話番号を登録したかを認識し、そのデータを受け取った企業はこの範囲で使いますよと明確に提示する。データを渡す側と受け取る側の信頼関係、データのポジティブエコシステムをどう作っていくかが重要になってくるのではないでしょうか。 杉本晃一(以下、杉本):お客様が納得したうえでデータを提供してもらい、その対価として豊かな体験をしてもらう。マーケティングにおける投資の対象が従来のフロー型からストック型に変わってきているので、お客様といかに繋がり続けられるかを重視する企業が増えてきたと感じています。 分島:どんな体験を提供すると、納得してデータを提供してもらえるのでしょうか? 杉本:最近ではゴルフ場の予約サイトで、AIチャットの共同実証実験の事例があります。ゴルフは初心者ほど人に話したくなるものですが、コースや打ちっぱなしの練習場から帰ってきて「今日は飛距離が伸びなかった」「ドライバーは良かったけど、アイアンがいまいちだった」と送ると、チャットが発言に応じた答えを返し、インタラクティブにやりとりを繰り返すうちに解決ポイントが明らかになって、ティップスやクラブの提案などのほしい情報が返ってくる。 また、ある自動車会社ではLINE上で居住エリアや趣味などを登録すると、天気や道路状況、アウトドアが好きな人なら車を利用したアウトドアライフの楽しみ方など、生活スタイルの提案もしてくれる。 どちらも自分の情報を渡すことで、パーソナライズされた便利な情報が得られ、より良い体験が返ってくることを実感してもらうことに成功しています。登録先が信用のおける企業で、ほしい情報が手に入るのであれば、お客様は納得して提供してくれますし、企業はそのデータを資産にすることができます。 杉本 晃一/株式会社 電通デジタル ストラテジー部門 部門長 エグゼクティブコンサルティングディレクター。Web広告代理店を経て、2016年電通デジタル設立時に入社。自動車/家電/IT/通信キャリア/金融などの業種で、コミュニケーション戦略設計、デジタルプランニング、運用コンサルティングを担当。現職ではマーケティングROIを押し上げるためのマーケティングコンサルティング、統合プランニング、データソリューション企画・開発をリードしている。 濱口:そうしたやり方で企業側がデータを得られるのは、すでにお客様になったあと、あるいは限りなくお客様に近い顕在顧客です。その一方で、広告などのマーケティング活動によって新しいお客様、潜在顧客を獲得しなければなりません。多くのIDベースの情報を持っているのは、やはり大手プラットフォーム事業者や小売事業者なので、各社のデータクリーンルームで管理されたデータの活用が重要になってきます。