これから不可欠となるのは「データのポジティブエコシステム」か?: 電通 のデータ部門リーダーに聞く、ポストCookie時代の考え方
価値あるデータを掛け合わせれば、AIの精度も上がる
分島:進化が著しいAIの可能性については、どうお考えですか? 杉本:バリューチェーンの強化に広く活用できるものであり、可能性は無限にあると思います。昨年、電通デジタルに相談を寄せられた企業のなかで、生成AIをビジネス活用されている割合は、未着手や検討中が50%、基礎的な部分で着手しているのが40%で、有効的に使われているイネーブルメントは5%、さらに社内外の各種業務で生成AIを活用することが前提となっている拡大フェーズは5%とほんのわずかです。 生活者や市場構造を把握することは、AIの得意とするところ。そこに我々が保有する生活者データを掛け合わせることで、精度は大きく改善されます。先ほどお話ししたゴルフ場のAIチャットでも、ゴルフ場DNAデータをファインチューニングしたら、より気の利いたコメントが言えるようになりました。 濱口:電通グループでは、IDデータではないですが生活者の意識価値、メディア接触状況などが把握できるような生活者調査を20年以上続けています。このような独自のデータを用いて、生活者のインサイトをAIに学習させることで精度を上げ、色付けできるのも我々の強みとなっています。 たとえば、クライアントさんのデータで 「男性・20代・会社員・忙しそうな人」 というところまでわかっていたとします。それに我々のデータを加えると、健康志向や好きなコンテンツまでわかるようになる。また、別のマーケティングをしている企業とコラボをすると、より良いソリューションのレコメンドができるようになるなど、可能性はますます広がっていきます。 分島:今後、企業の持つアーカイブデータの価値も高まっていきそうですね。 濱口:そうですね。たしかにデータの価値は高まりますが、問題はその質で、事業成果を上げるために必要なものかどうかがデータの価値を左右します。当たり前のことを言うようですが、PDCAのPの部分、「何をしたいのか」を明確にしたうえで、その目的を達成するために必要なデータを必要な質で取らなければ意味がありません。 サードパーティCookieのようにそれさえあれば、すべてを網羅するような代替ソリューションやデータは今のところ存在しません。1社で必要なデータを全部集めるのは難しいため、我々がさまざまなプラットフォーム事業者やデータホルダーと連携し、価値あるデータを数多く幅広く用意することで、うまく繋ぐ役割を担っていきたいと思います。 Written by 山本千尋 Photo by 三浦晃一
編集部