【法律ホラー】今すぐ離婚するほうが4万円お得?離婚を切り出された時に考えたい生々しいお金の話【作者に聞いた】
知らないとヤバイ法律、知ったら知ったで悪用する人が出てきてしまう…それが法律です。弁護士をしながら、法律にまつわる4コマ漫画を日々、X(旧Twitter)で発信をしている【漫画】弁護士のたぬじろうさん(@B_Tanujiro)。意外と身近に存在する、法律にまつわる「ヤバイ」を漫画にすることで、法律を知ることの重要性を読者に投げかけています。 【漫画】「知るほどヤバイ知らないともっとヤバい法律の闇」本編を読む 今回は、離婚を切り出された時に考えたいお金の損得の話です。すぐに離婚したほうが得なのか?すぐに離婚するのは損なのか?そんな生々しい話を漫画で解説してもらいました。 ――離婚を切り出された夫(または妻)が弁護士事務所に相談しに来ることはよくあることですか? たぬじろうさん(以下、たぬじろう):よくありますね。離婚を切り出されたような場合、配偶者と円滑なコミュニケーションがとれなくなっていることが通常です。そのため、大小の差はあれど、揉めていることが多いのです。離婚する当人にとって大きな出来事ですから、このような揉めている案件について、専門家に相談しておこうと思うのは一般的なことなのだと思います。 また、配偶者と直接話をすることが嫌になり、弁護士を通して話をしたいという方もいます。 今ではインターネットで離婚の際の法律について、ある程度は簡単に調べることができます。しかし、インターネットの情報だけでは、個々の離婚問題の解決には足りないことも多いのでしょうね。 ●婚姻関係破綻時とは? 財産分与は清算的要素があるとされています。つまり、財産分与には、夫婦で築き上げてきた共有財産を清算分配するという側面があります。 婚姻関係が破綻したあと、新たな財産を取得した場合であれば、それは実質的には夫婦の共有財産とは言えませんよね。ですから、清算分配をする必要はなく、財産分与の対象とはならないわけです。 同様に、婚姻関係が破綻したあとに、夫婦の一方、例えば夫が財産を浪費したのであれば、それは浪費した夫の責任であって、浪費していない妻の責任ではありません。そのため、財産分与の対象は減りません。 では、いつの時点で婚姻関係が破綻したと言えるか。通常は、別居の時点と考えられるのです(夫婦関係円満時の単身赴任による別居は、婚姻関係が破綻した時点とは言えません)。 なお、財産分与の対象の確定は別居時(婚姻関係破綻時)となりますが、その評価については離婚時(判断する直近の時点)となります。例えば、別居してから不動産価格が暴落した場合は、その暴落した金額で財産分与額が算定されます。ここは注意が必要ですね。対象の確定の時点と、対象の評価額を決める時点は、異なるということです。 ●扶養義務とは? 自己の収入のみでは自立した生活を送れない親族等を、経済的に援助する義務のことをいいます。 配偶者や未成熟の子どもについては、扶養義務者自身と同等の水準の生活を保障する義務を負います。これを「生活保持義務」といいます。婚姻費用や養育費の支払いの根拠は、この「生活保持義務」とされています。 ちなみに、上記以外のケース、例えば兄弟姉妹や成熟した子(成人済みの子)に対する扶養義務は「生活扶助義務」といいます。この場合は、扶養義務者の生活は通常どおり送れることを前提として、その余力の範囲内で扶養すれば良いとされています。 ――結婚している相手が「不倫している!」と主張して弁護士事務所に駆け込んでくる人は多いのでしょうか?実際には不貞行為が認められない、とされるケースは多いですか?また要件を満たす証拠には、どのようなものがありますか? たぬじろう:弁護士をしていると「世の中、不倫ばかりじゃないか」と思うくらいには、よくあります。そういうケースが弁護士に相談に来るので、多く見えるだけかもしれませんけどね(そうであってくれ…!)。 不貞行為を相手方が認めていれば良いのですが、否認されると、不貞行為があったと主張する側(不倫された側)が、証拠をもって不貞の事実を証明しなければなりません。これが実は、けっこうハードルが高いです。単に仲が良いだけでなく、性的関係にあることまで、証拠をもって証明しないといけないわけですからね。 典型的な証拠としては、 ・写真や動画(行為中のものでなくても、裸体写真が保存されているようなケースも) ・性的関係があることを前提とするLINEやメールのやりとり(不正に入手した場合、プライバシー侵害や不正アクセス禁止法違反に該当する可能性もあるので慎重に) ・興信所や探偵社の調査報告書(数十万単位の費用がかかるが、空振りに終わることもあるので、利用するか否かは慎重に決める必要あり) 等が考えられます。 ――この場合のピョン吉郎さんの取るべき最善の行動は何ですか? たぬじろう:この時点では、まだ婚姻費用の請求がされていないため、妻側のアクションを待つという選択肢もあると思います。 では、婚姻費用の請求がなされた場合はどうするか。 離婚することに異議がないのであれば、経済的な側面からは、できるだけ早急に離婚をすることが最善策と言えるでしょうね。早く離婚したくても条件が折り合わない場合、妻側の提示する条件を飲んだ場合と、長引いた場合に支払うことになる婚姻費用を比較して、どちらが良いか(マシか)を考えることになると思います。 離婚したくない場合には、婚姻費用を支払うことは受け入れつつ、話し合うしかないでしょうね。しかし、妻側が弁護士に委任した場合、離婚せずに夫婦関係が修復するというケースは殆どないと思います…。 【もっと教えて!たぬじろうさん】 離婚する際に動くお金は、大きく3つあります。 ① 慰謝料 ② 財産分与 ③ 婚姻費用・養育費 です(他に年金分割もありますが)。 慰謝料(①)は、不貞行為やDVがあった場合です。単なる性格の不一致では、慰謝料は発生しません。今回のケースでは発生しませんね。 財産分与(②)は、夫婦の共有財産を2分の1に分ける制度です。ピョン吉郎さんは、小さく「1000万円くらいあるんで」と言っているので、妻側の資産にもよりますが、かなり大きい金額になりそうですね…。 婚姻費用・養育費(③)が今回のマンガのメイン題材です。婚姻費用も養育費も、どちらも扶養義務に基づく生活費の支払いです。離婚の前後で、呼び方と対象が変わります。 離婚する際には、①~③がちゃんと検討されているかを吟味する必要があります。どれかが抜け落ちていると、離婚で損をしたということになりかねません。 話は変わりますが、離婚をするためには、当事者双方が同意をした場合を除き、離婚原因が必要です。典型的には不貞行為(民法770条1項1号)ですね。 別居もあまりに長くなると、「婚姻を継続し難い重大な事由」(同項5号)として、離婚原因となり得ます。この別居期間は他の事情とも総合的に考慮されるので一概には言えません。3年を超えると離婚を認める裁判例も散見されるようになってくるので、3~5年程度が一つの目安にはなるのかもしれません(あくまで目安にしか過ぎません)。 さて、このような離婚原因がない限り、裁判になっても、強制的に離婚になることはありません。しかし、そんなケースでも、弁護士が着任すると、多くのケースが離婚という結末を迎えます。これは何故でしょうか。 ひとつには、弁護士に依頼するほど決意が固いことが、相手方配偶者にも分かるからだと思います。直ぐに理解できなくても、徐々に分かってくるというケースも多いです。 そして、婚姻費用も、離婚に応じるひとつの理由になりえます。マンガでも描いた通り、離婚しない限り、婚姻費用として配偶者に関する生活費分も負担し続けなければなりません。関係の修復の兆しが全く見えない中で、毎月多くの費用を支払続けるということは、経済的にも精神的にも中々辛いものがあります。そうなると、「もう離婚するしかない」と決心せざるを得なくなるケースが多くなのだと思います。