「ガンバ大阪の10年後のために何ができるのか」――パナソニックスポーツ・久保田剛社長インタビュー
2022年4月1日、パナソニックグループはパナソニック スポーツ株式会社を設立し、ガンバ大阪を同社の子会社とすることを発表した。この決定がクラブに与える影響を具体的に把握しているファン・サポーターは少ないだろう。 コロナ禍による収益減を経験し、各Jリーグクラブが経営戦略の在り方をあらためて問われている昨今。“親会社”はガンバ大阪の現状をどのように捉えているのか。そして、パナソニック スポーツの設立によって、クラブへのサポートの在り方は変化するのか。 パナソニックスポーツ社長執行役員・久保田剛氏にインタビューを実施した。 インタビュー・文 玉利剛一(フットボリスタ編集部)
スポーツを事業として成り立たせるためには……
――最初にパナソニック スポーツを設立した経緯を教えていただけますか? 「ひとつの契機として2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップがあります。(埼玉パナソニック)ワイルドナイツから日本代表メンバーに6名が選出されましたが、そうした価値を会社(パナソニック)として活かしきれていないのではないかという議論が当時常務だった片山(栄一)を中心にありました。また、(パナソニック パンサーズが活動する)バレーボール界においても事業化の話があり、各スポーツ界の状況に対して受け身ではなく、主体的にできることをやっていこうとパナソニック スポーツ設立につながっていったものです」 ――パナソニックには2020年に「スポーツマネジメント推進室」というスポーツの事業化を目指す組織が立ち上がりました。この組織を母体としてパナソニック スポーツが設立された訳ですが、株式会社化することで各チーム(クラブ)との関係性は変化したのでしょうか? 「『スポーツマネジメント推進室』は法人化に向けた準備室のような組織で、ワイルドナイツやパンサーズらコーポレートチームを運営する企業スポーツ部門と、『オリンピック・パラリンピック推進本部』の一部メンバーからなるガンバ大阪の事業支援部門で構成されていました。それがパナソニック スポーツとなりました。変化としては、これまで以上に『事業として成り立たせるためにはどうすればいいか』をコンセプトに活動しているということですね。日本のスポーツチームの多くは、母体となっている企業が相当な投資を続けないと継続できないのは事実としてあります。でも、スポーツは価値があるものだと信じています。だから、その価値表現も含めて、手法を編み出していこうと各チームと連携して活動を始めているところです」 ――パナソニックスポーツ設立のタイミングで、ガンバ大阪を子会社化しています。 「パナソニックにとってガンバ大阪はブランド価値向上を担う側面が強かったですが、パナソニック スポーツの子会社となることで独立したスポーツビジネスの文脈での関係性になります。ただ、勘違いしていただきたくないのは、親会社だからといって(ガンバ大阪に対して)ガバナンスやマネジメントを現場まで踏み込んで直接的に効かせるということではありません。ガンバ大阪は30年前から運営されている会社ですから、これまで培ってきたことを尊重したい。相互的に刺激を与えあって成長できる関係性をイメージしています」 ――コロナ禍による経済的なダメージの影響もあり、親会社とJリーグクラブの関係性については、あらためて議論される機会も増えています。 「結論を先に言えば、Jリーグの30年は良かったと思います。地域のアイデンティティ表現が生まれ、クラブを通じてスポーツそのものの魅力が多くの人に伝わった。ただ、ワープした……という表現が正しいのか分かりませんが、先に仕組みを作ったので、その裏で企業が支えている事実が見にくくなっている側面があります。企業名を外すことが美徳となったことによるひずみが生まれていることもまた事実です」 ――今年1月に本田圭佑氏がSNSに投稿した「クラブに企業名を入れられるようにするべき」という意見も話題になりました(※取材日:2023年12月8日) 「J1リーグで上位の60億~70億という売上は母体となる企業の存在が必要です。そうした現状を考えれば、企業名を出すのはフェアかもしれませんが、そうなるとクラブが地域のものにならない。ガンバ大阪はすでに地域のものであり、サポーターのものですよ。今からクラブ名に企業名を入れるのは考えられないと思います。ただ、企業名を出さない奥ゆかしさも含めて、企業からスポーツに多くの投資がされている事実をもっと知って欲しいという気持ちはあります」