「ガンバ大阪の10年後のために何ができるのか」――パナソニックスポーツ・久保田剛社長インタビュー
長期的な目線での投資
――ここからは対象をガンバ大阪に特化する形でお聞きします。パナソニック スポーツがクラブとのコミュニケーションで意識していることを教えてください。 「基本スタンスとしては、ガンバ大阪が行っている取組みを尊重した上でサポートすること。クラブ経営はプレッシャーの強いビジネスなので、どうしても目の前のシーズンや試合を重視することになります。投資も勝つための選手人件費が優先される。効果が見えにくいものに関しては(投資に)迷いが出ると思うので、そこは背中を押す。具体的にはグローバル戦略などが、それに該当します」 ――2023年2月にはタイ・リーグ チョンブリFCとの提携を締結しました。 「ガンバ大阪のグローバル展開は遅れてしまっている現状があり、今後は欧州クラブとの連携も検討、調整しています。ただ、付け焼刃で行っても意味がない。マリノスのようなMCOという形式になるかは分かりませんが、サッカー界のトレンドもふまえつつ、10年先まで見据えられる体制を組むことは支援する重点テーマの1つです」 ――ガンバ大阪のグローバル戦略を重視するのは、パナソニックがグローバル企業であるという理由もあるのでしょうか? 「いえ、その考え方はガンバ大阪にとって負担でしかありません。チョンブリとの提携に関しても、ガンバ大阪が重視している『育成』の文脈で適切な相手は誰かなのかを重視して決定されています」 ――他に現在想定している長期的な目線での投資対象事業を教えてください。 「基本的には(クラブの)内発的な考えを重視しつつですが……例えば、万博記念公園駅前の再開発にも注目していますし、女子チームを運営することを検討していいかもしれません。これは私の勝手な希望でもありますが、パナソニックスタジアム内に醸造所を併設するとか、梅田でガンバ大阪に完全に特化したスポーツバーを経営するというアプローチもあっていい。こうしたアイデアを含め、我々はガンバ大阪の10年後のために何ができるのかという視点で考え続けるのが仕事です」 ――2021年に実施したインタビュー取材で小野忠史社長(ガンバ大阪)は「(1年での)売上高100億円を目指す」ことを明言されています。過去実績を考えると簡単な目標ではありませんが、お話いただいたような事業が実現すれば可能性が出てくるように感じます。 「例えばチケット代を大幅に値上げして、入場者数が今以上に増えたとしてもマッチデーインカムの上限はあります。スポンサー収入はパナソニックからの金額も含め、現時点でも相当な額だと考えています。放送権料はこれから大幅に上がる可能性が高いとはいえないでしょうし、100億円はおっしゃる通りまだ距離がある目標で、私としてはアジアや世界で戦うための事業規模の目安と受け止めています。パナソニック スポーツとしては一時的には支出を増やすことになっても、長期的には大きな収益源になる可能性のある事業への投資は重要だと考えています」 ――本日はありがとうございました。最後にもう1つだけ質問させてください。昭和を企業スポーツの時代、平成を地域スポーツの時代と捉えた時、令和は何の時代になるとお考えになりますか? 「綺麗ごとだと言われてしまうかもしれませんが、スポーツを通じた社会課題の解決が重視される時代になっていると思います。スポーツは人を引きつけ、繋ぐ力があります。そうした価値をもう少し可視化して、いわゆる非財務の価値も高める。ガンバの売上高は60億円程度ですが、本当は何百億……いや、何千億の価値があるはず。立派なスタジアムがあって、歴史があって、ファンベースも大きい。もっと輝けるはず。それをステークホルダーの皆さんと考え、表現していく。そういう目線でスポーツ業界に一石を投じたいと考えています」
Takeshi KUBOTA 久保田 剛 1968年生まれ、香川県出身。明治大学政治経済学部卒業。NTT、ソニー系列の広告会社などを経て2010年11月より大宮アルディージャにて取締役事業本部長を歴任。2019年9月にパナソニック株式会社に入社し、2022年4月に設立されたパナソニック スポーツ株式会社代表取締役社長執行役員CEOに就任。趣味は歴史街道歩き、ジョギング。 Photos: Ryo Kubota , Getty Images インタビュー・文:玉利 剛一(フットボリスタ編集部)
玉利剛一(フットボリスタ編集部)