インターネット検索が普及した理由とは?
なぜネットを使ってしまうのか~医療情報の有用性
総務省「令和4年通信利用動向調査」(1) によると、インターネット利用者の割合は、10代(13~19歳)から50代では95%を超えており、60代は86・8%、70代でも65・5%に達しています。インターネットの利用目的として「情報検索」を挙げた人は73・7%に上り、今や、老若男女を問わず、何か知りたいことがあったらまずインターネットで検索することが当たり前になっています。健康や医療に関する情報でも事情は同じです。 なぜわたしたちは、調べものにインターネットを使ってしまうのでしょうか。その理由を考える上で参考になるのが、現在は米国のタフツ大学で家庭医学の教授を務めているアレン・ショーネッシーさんらが約30年前に提唱した「医療情報の有用性の公式」(2) (図)です。 ショーネッシーさんらは、膨大な医療情報(彼はこれを〝ジャングル〞と呼んでいました)について、この公式を使って有用性を計算し、高いものを選べばよいと考えました。ここでの関連性とは、その情報が自分の知りたいこととどのくらい合っているのか、妥当性とは、その情報がどのくらい確かなのか、という意味です。もちろんどちらも重要です。そのため、これら二つの要素が「分子」で、大きいほど有用性スコアが高くなります。 しかし、関連性や妥当性がいくら高くても、その情報を得るために必要な労力が大きすぎると、わざわざ使う気にはなれません。労力とは、体力的な労力(分厚い辞書を調べる、遠方の図書館に出向くなど)だけではなく、かかる費用を含めてもよいでしょう。これが「分母」となり、大きいほど有用性スコアは低くなります。 もうお分かりでしょう。インターネットは、「分母」の労力がものすごく小さいのです。手元でパソコンやスマートフォンをちょっと操作するだけで済みますし、費用も(接続費用を除けば)かかりません。そのため有用性スコアが高くなり、だからこそインターネット検索がここまで普及していると考えられます。 気を付けたいのは、「分母」がものすごく小さいと、たとえ「分子」が小さくても有用性スコアが高くなってしまう点です。本来、健康や医療に関する情報は、妥当性、つまり確かさが大切なはずです。インターネット検索は便利に違いありませんが、確かではない、あやふやな情報をつかむ恐れがあるという点には注意すべきだと思います。 【文献】 (1)総務省プレスリリース「令和4年通信動向調査の結果」 (2023年5月29日) (2)Shaughnessy AF, et al. Becoming an Information Master: A Guidebook to the Medical Information Jungle. J Fam Pract.1994; 39: 489-99. 北澤京子(きたざわ きょうこ) 医療ジャーナリスト 京都薬科大学非常勤講師 *『月刊糖尿病ライフさかえ 2023年9月号』「賢く付き合おう! 健康・医療情報」より