「人はなぜ、グチグチ悩むのか」その答えは約60年活躍し続ける草野仁にあった【精神科医・和田秀樹が解説】
「建設的な悩み」と「建設的でない悩み」
和田 みんな「悩めば人間は成長する」なんて言うけど、僕はそういうふうに思わない。 草野 同感ですね。 和田 悩みには大きく分けて2種類ある。ひとつは、自分で変えられる「建設的な悩み」です。もうひとつは、自分では変えられない「建設的でない悩み」です。「建設的でない悩み」を抱え続ける人は、次第に神経症的な悩みになっていきます。 草野 「建設的でない悩み」って、具体的には? 和田 例えば過去。これは変えられないですよね。それから、人の気持ちも変えられません。みんな人の気持ちは変えられると信じているんですが「あの人にどんなふうに思われているか」と悩んだところで、変えられないんですよ。それなのに思い悩むからどんどん苦しくなり、心を病んでいってしまう。 草野 なるほど。「建設的な悩み」とは、どういうものでしょう? 和田 自分で変えられるものです。例えば「明日の服どうしようか」とか「今度こんなことやろう」とか。それは変えられることですよね。悩んでも気分は暗くなりません。将棋の藤井聡太さんが「最善の手はどれか」と悩むのは建設的な悩みです。
“割り切り力”が大事
草野 私は「割り切り力」が大事だと思っているんですね。 和田 割り切り力? 草野 はい。グチグチと細かく考えすぎると、割り切れずにそのことが頭に引っかかったままの状態になりますよね。 和田 すると、そこに気を取られて、目の前のことに集中できなくなる…。 草野 そうです。それはよくないと思うので、私は「ここは切り替えよう」と、即断的に割り切ってしまうんです。人生に対して、真剣な追及が足りないのかもしれませんが(笑)。 和田 いやいや(笑)。尊敬する養老(孟司)先生は口癖のように「世の中なんて、理屈どおりにならないよ」と言います。だけど、多くの人は「理屈通りになる」と勘違いしているから、割り切れずにグチグチ悩むんですよ。 草野 本当にそうですね。 和田 「段取り通りにいかないのが普通なんだ」と思っていれば、割り切って決断できます。決断したうえで、また局面が変わったなら“出たとこ勝負”で対応する。草野さんは、それが上手なんだと思いますね。反対に、やる前からグチグチ悩む人は“出たとこ勝負”が下手な人なのかもしれません。 草野 確かに、そういう面はあるかもしれませんね。 和田 テレビみたいな仕事は、やはり“出たとこ勝負”が求められますからね。その力のある人が残っていくのだと思います。この世界で60年近く活躍されている草野さんは、その最たる人なんでしょうね。 草野 いやいや(笑)。和田先生もそうでしょう? 和田 いや。僕はテレビ向きじゃないです。瞬時に応じるのはあまり得意ではない。まあ、割り切り力はずば抜けていると思うんですけど(笑)。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。 草野仁/Hitoshi Kusano キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。
TEXT=山城稔 PHOTOGRAPH=筒井義昭