要は「不登校など長期欠席者のための受験枠」という要望だが、実際に導入しようという県もある。山梨県だ。山梨県は、2025年度入試から県立27校、市立1校の計28校の後期入試で調査書を使わない入試枠を設ける予定だ。山梨県教育委員会の担当者が言う。 「山梨県の高校入試ではこれまで調査書と、当日の学力検査を同等に評価していました。不登校の子は調査書の評価が低くなる傾向で、合格者決定上で不利になっている状況がありました。詳細はこれから決めますが、学校の規模に応じ、2～4人程度を下限として想定しています」 そして、東京でも見直す動きが出ている。現状では不登校の高校進学先は、都が独自に設置したチャレンジスクールなどの定時制や通信制が大半だ。だが、都教育庁の担当者はそうした進路に偏らせず「不登校や日本語指導が必要な生徒が増えていることを踏まえ、生徒のニーズに合った都立高校入試を検討するべき時期にきています」と話す。 高校入試のあり方について、東京都教育庁は2023年度に中学校と高校の校長、保護者代表などでつくる入学者選抜検討委員会で議論を始めた。不登校や、日本語指導が必要など多様な生徒にとって、調査書のあり方を含め、どのような入試が望ましいかを検討していく。

「不登校の子にもっと受験の選択肢を」

成澤乃彩さん。自身の不登校の経験をSNSで発信している

中学時代の不登校から全日制高校に挑戦した自分の経験から、不登校の子の受験の選択肢を広げてほしいと訴える人もいる。

東京学芸大学大学院1年生の成澤乃彩さんだ。成澤さんは、長野の中学校に通っていた中1の春に突然倒れ、起立性調節障害の診断を受けた。中3の12月まで学校に行けなかった。 当初はYouTubeで数学や英語の無料解説を見て基礎から学んだが、中3の12月、自宅学習の限界を感じて、中学校の空き教室で勉強することに。人目は気になったが、「高校に行くか、一生引きこもりかの2択」と自分を追い込んだ。 成澤さんは、中3の通知表を手に当時の気持ちをこう話す。 「学校に行っていないので、ほとんど『＊』（測定不能）マークです。長野県の公立高入試は前期と後期があり、私が受験した当時、前期は面接や調査書が重視されたので、後期だけ受けました。倍率の高くない県立高校を選び、併願で私立を受験しました」 成澤さんは後期入試で無事県立高に合格。その後、信州大学教育学部に進学・卒業し、この春から東京学芸大学の大学院生になった。同時に、故郷の長野で県教育委員会が設置する、不登校の児童・生徒の学びの継続を考える懇談会の委員を務める。2023年7月には県政ミーティングで阿部守一知事に、不登校のため、試験だけでプレッシャーが大きかった自分の経験を踏まえ、「不登校の子が高校に行く機会を広げてほしい」と考えを述べた。成澤さんは言う。 「私は友達と同じように全日制高校に進んで、学校生活を仕切り直したいと思っていました。不登校だから通信制や定時制高校と進路を狭めるのではなく、選ぶ道を広げてほしい。そう思っています」 --- 国分瑠衣子 北海道新聞社、繊維専門紙記者を経てフリーの記者に。入試・受験と労働問題を主なテーマに取材している。