教師から性暴力、34年後の勝訴 「重い扉」開けた男性の願い
ヤフーニュース特集の記事をきっかけに
2018年2月、ヤフーニュース特集で「教師から『支配』のわいせつ――『スクールセクハラ』実態と構造」というタイトルで筆者が書いた記事が公開された。まもなく、栗栖さんからメールが届いた。次のような書き出しだった。 「ネットで記事を拝見しました。今回の記事を読み、自己と同じ境遇の方が数多くいらっしゃるということがわかりました」 翌月、栗栖さんと対面した。初めて会う栗栖さんは、何かに怯えるような、落ち着かない様子ではあったが、被害に関する分厚い資料を持参し、必死に語った。 筆者は栗栖さんの話を、雑誌「保健室」(現在は廃刊)同年6月号で仮名の記事にした。続けて、ヤフーニュース特集や月刊文藝春秋などで取り上げた。栗栖さんは、自身の記事が世に出た時のことを「訴訟への出発点だった」と振り返る。
「とうとう事件が表に出た、これでなかったとは言わせないという思いが湧いてきて、手が震えたのを覚えています。私の中学当時のことを知る立場の人には都合の悪い話なので、ずっと誰も聞いてくれない、認めてくれないという状況でしたから」 栗栖さんはそれ以降、様々な媒体の求めに応じ、証言してきた。他の被害者たちの告発と相まって、教員による性暴力を許してはならないという世論が高まり、2021年5月には「わいせつ教員対策法」が成立した(今年4月施行)。 一方で、栗栖さんには、公的機関に事件を認定してもらうことが自身にとって最終的な解決になるという思いがあった。ただ、民事裁判で一般的な損害賠償請求は、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」がネックとなって、弁護士に相談しても難しいと断られ続けていた。 今年2月、栗栖さんは、ある記事に目を留めた。同じ松戸市の男性が、同市立中学生のいじめ自殺への対応をめぐって一人で訴訟を起こし、市に一部勝訴したという内容だった。 「同じような(弁護士などの代理人に頼らない)本人訴訟ならできるのでは、と思いました」 どんな本人訴訟ならできるかと考え、ひらめいたことがあった。市教委に再調査を訴える材料にしようとAの連絡先を探し当て、2018年に探りのメールを入れた際、本人からの返信で、中学時代の栗栖さんの下着を所持していたと認めていたことだ。 栗栖さんが調べてみると、所有権に基づく返還請求なら時効の問題がないようだった。 「その下着の返還を求める訴訟を起こし、判決文で動機にあたる部分を事実認定してもらおうと考えて、提訴しました」