教師から性暴力、34年後の勝訴 「重い扉」開けた男性の願い
救いだったのは友人たちだ。大学時代の同級生たちに性被害の経験を打ち明けたところ、「お前は悪くない」「その中学校はおかしいよ」と口々に励ましてくれた。塾講師のアルバイトをしていた時には、バイト仲間が一緒に憤ってくれた。当時の刑法では栗栖さんの受けた被害は強制わいせつ罪に該当したが、当時の時効の5年は過ぎていた。それでも「時効に関係なく許されないことはある」と言ってくれた。その言葉が支えとなり、栗栖さんは、何かしら解決の道はないかと考えるようになった。
警察に「これは刑事事件ですよ」と言われたが…
2017年7月、改正刑法が施行された。旧法の強姦罪は性交のみが処罰対象で被害者は女性に限られていた。だが改正後の強制性交等罪は口腔性交も処罰対象となり、被害者の性別も問われなくなった。 栗栖さんはそれをきっかけに、地元の警察署へ初めて相談に行った。 「刑事課の方が『これは刑事事件ですよ』と言いましたが、やはり時効になっているので動けないと。そこで、教師のAが最近の勤務校で同様のことをしていないか調べてもらえないかとお願いしましたが、警察としては被害者が特定できていないと動けないという回答でした」 依頼には理由があった。塾講師をしていた2006年、当時のAの勤務校に通う男子生徒からこう聞いたのだ。「部活でもクラスでも男子生徒は全員、Aから股間を触られたことがあります。他の先生たちも見ているし、知っているのに何もしてくれません」。Aは2016年に教員を退職したが、その直前まで自分と同じような被害者がいたのではないかと案じていたのだ。 栗栖さんは2017年10月、千葉県教委と松戸市教委に自身の被害を伝え、調査を依頼した。千葉県の条例では、在職中に懲戒免職処分を受けるべき行為をしたと認められる場合には、退職後でも一定期間、退職金の返納を命じる処分を行うことができると定めている。栗栖さんはその処分を求めた。
松戸市教委学務課によると、調査は、Aが定年前に勤務していた直近3校の学校長への聞き取りと、千葉県教委による生徒へのアンケート調査の確認だった。だが、わいせつ行為が疑われる事案は見つからなかったという。A本人にも簡易書留で調査依頼を送付したが、期日までに返答はなかった。既に退職している私人であり、市教委には強制力のある調査権がないため、調査は同年末に終了した――。 栗栖さんはこの調査内容に納得がいかなかった。そこで主要新聞社などメディアに100通を超える情報提供のメールを送ったが、記者からの反応はなかった。