太古の超巨大サメ「メガロドン」の謎に迫る 日本出身の研究者「Dr. Shimada」
サメ化石研究家Dr. Shimada(島田賢舟教授)
ちなみに今回紹介したDr. Shimadaと、私は個人的にもうかれこれ20年になる深い付き合いがある。彼の現在の国籍はアメリカだが、「島田賢舟」という正式な漢字の名前も持っている。1歳から6歳の間、両親の仕事の関係でカナダ・オタワに住んでいたそうだ。ほとんどなまりのない流暢な英語をあやつることができるのは、こうした要因もあるのだろう。ちなみに私たちが直接会話する時は日本語だが、メールをやりとりする時はどういうわけか英語を用いる。 「KENさん」(といつも親しみと尊敬の念をこめてこう呼ばせていただいている)は、特に恐竜時代にあたる「白亜紀のサメ」研究における第一人者として長年活躍している。研究論文も定期的に最近に至るまで書き続けている。もう25年以上になるのではないだろうか。 白亜紀のサメに関するその博識ぶりについては、研究者仲間からも一目置かれている存在だ。 このように長年、中生代の白亜紀のサメ研究に的を絞ってきたKENさんが、なぜ、それよりも新しい地質年代である新生代のメガロドンの研究をしたのか? 今回の論文の噂をはじめて耳にした時、私自身が白亜紀の化石研究を行っているという個人的な事情もあって、少し驚いた。 今回、KENさんに改めて個人的に質問をぶつけてみた。 そもそも、どうしてメガロドンの研究をはじめたのか? 実はKENさんにとって、メガロドンは切っても切れない深い縁があった。「化石研究の道」へ足を踏み入れる、直接の大きな契機を与えてくれたのが、実はメガロドンだったというのだ。 KENさんは、中学生に上がるころ漠然と化石に興味を持ち出し、野尻湖などで化石採集に参加し始めた。その時の島田少年が化石採集に夢中になっているシーンが写っている貴重な写真を今回見せていただいた(上の写真参照)。 そして13歳のころ、島田少年は、東京近郊で偶然にもメガロドンの歯を発見した。 このメガロドン発見という強烈な体験は、後の島田少年の人生の進路を決めた。その後は毎週末のように化石採集に精を出すことになる。日本の高校生時代に行われた読売新聞主催の第30回日本学生科学賞において、「板鰓類化石の研究」で入賞(科学技術庁長官賞)をはたしてもいる。 大学は北米に移り、化石研究に、より精を出すことになった。カンザス州のフォート・ヘイズ大学で学士号・修士号、そしてイリノイ州立大学で博士号を取得する。その間、サメ研究一筋に打ち込んできた。先述したように白亜紀のサメがその研究の主なテーマだった。 そして今回、KENさんは少年時代の原点に立ち帰るように、メガロドン研究の成果を発表した。 KENさんの人生は、少年時代にメガロドンの歯を発見した時、すでに、その行く先が定められていたのかもしれない。その道筋は全く「ぶれることがなかった」と言っても大げさではないだろう。 ちなみにKENさんのメガロドンの研究はこれで終わりではない。今回の論文発表を皮切りに、今後も進化のプロセスや絶滅の謎に関するテーマなどに挑むそうだ。今後の研究の成果が非常に楽しみだ。
著者略歴:池尻武仁(博士)。名古屋市出身。1997年に渡米後、2010年にミシガン大学で化石研究において博士号取得。現在アラバマ大学自然史博物館研究員&地球科学学部スタッフ。古脊椎動物(特に中生代の爬虫類と魚類)や古生代の植物化石にもとづくマクロ進化や絶滅、そして太古環境の研究をおもに行う。Twitterアカウントは@ikejiri_paleo