太古の超巨大サメ「メガロドン」の謎に迫る 日本出身の研究者「Dr. Shimada」
謎につつまれたメガロドンの大きさ
このメガロドンについて、米国・シカゴにあるデポール大学のKenshu Shimada教授が、9月30日付けの学術雑誌「Historical Biology」に、その大きさの科学的な推定を行った重要な研究結果を発表した。(筆者注:「Kenshu Shimada (2019) The size of the megatooth shark, Otodus megalodon (Lamniformes: Otodontidae), revisited」のタイトルで検索すると、雑誌のサイトを通しオリジナルの論文コピーに11月末までアクセスできる) どうして「サイズの推定」が科学的に重要となるのか? そこにはいくつか理由がある。 まずその「巨大さ」がよく強調されるメガロドンだが、実はそのはっきりした全長ははっきりと計測されたことがない。サメの脊椎は我々の鼻や耳にみられるような「軟骨」でできていて、軟骨魚類に分類されている。そのためサメの全身がそろった骨格化石が見つかることは、硬骨魚や恐竜などと比べると、非常にまれだ。メガロドンの全身骨格の化石が見つかるなどということは、古生物学者にとっては夢物語に過ぎない。 しかし丈夫なエナメル質と呼ばれる物質で構成されている「歯」だけは、化石として非常によく見つかる。特にこのメガロドンの歯は、他のサメの歯と比べても異様に大きい。大きめの歯だと、成人男性の手の平にすっぽりと収まりきらないほどだ。これだけの大きさの歯というのは、化石記録を見渡しても私は他に思いつかない。フランス革命期に使われたギロチンの刃を思い起こさせる。それほど圧巻のサイズなのだ。 冒頭の写真でDr. Shimadaが手にしているメガロドンの歯の実物化石を、あらためてチェックしてみてほしい。これだけの大きさの歯が270個近くぎっしり詰まったアゴなら、人間サイズの獲物など、せんべいをかじるように造作もなく食すことができたはずだ。そして、これだけ立派な歯であれば、化石として非常に保存されやすく、また発見される確率も高いことが分かっていただけるだろう。 参考までに、現生のホオジロザメの歯のサイズは、親指の長さに満たないくらいだ(映画「ジョーズ」の中に、船底にひっかかった歯をつまみ上げるシーンがある)。 歯の大きさだけをシンプルに比べてみると、メガロドンの体長はホオジロザメと比べ少なくとも3~4倍くらいのサイズになるだろうか? ただ、現在、歯しかその姿を見ることができないメガロドンは、いろいろな意味で研究者泣かせだ。特にその体全体の「具体的な大きさ」になると、これまでほとんど推測の域を出なかった。 歯の大きさをもとに、まずは「口のサイズ」が大まかに推定されている。メガロドンの歯がよくみつかる米国・ノースカロライナの州立自然史博物館には、有名なメガロドンのアゴを復元した模型が展示されている。その口の大きさは成人男性が3人くらい収まるほどのものだ。 しかし、具体的な体の全長となると話は別だ。実に様々な数値が挙げられていることを、Dr. Shimadaは論文の冒頭で指摘している。 いくつかの学術雑誌にこれまで発表されたものには「約20~26メートル」という記述がある。一般向けのサイエンス関連の本や記事の中には「30.5メートル」、中には「60メートル」という途方もない値さえみられる。 こうした記述のバラつきは、メガロドンの体のサイズが「はっきり分かっていない」ことを示している。そしてメガロドンの巨大な歯は、我々の想像力を大いに刺激してくれる。 そういえば昨年(2018年)には「The Meg」(邦題:MEG ザ・モンスター)という、メガロドンが現在まで海底の一部にひっそりと生き延びており、あるきっかけで海上付近にまでやってきて次々と人を襲い始める、というスペクタクルな映画もあったようだ。私はまだ観ていないのだが、どれくらいの大きさのサメが映画の中で復元されているのか、非常に興味がある。 メガロドンのような海洋における最大級の捕食者のサイズを正確に知ることは、生物の進化史、そして当時の海環境などを探る上で重要となるはずだ。