太古の超巨大サメ「メガロドン」の謎に迫る 日本出身の研究者「Dr. Shimada」
古生物学者で、米国アラバマ大学自然史博物館研究員の池尻武仁博士が、「古生物、生物進化、太古の地球環境」の分野の興味深いトピックスについて解説します。今回は、太古の超巨大サメ・メガロドンの大きさの謎に迫る日本出身の研究者のお話です。
実在したジョーズ
かなり古い話からはじめて恐縮だ。1975年に公開されたスピルバーグ監督の映画「ジョーズ(Jaws)」。この映画の主人公は船長や警部(保安官)、サメ学者をつとめた役者達ではなく、やはりあの「巨大なサメ」だろう。 「ダ、ダーン、ダーダン」。冒頭のシーンから流れるおなじみのメロディーを耳にするだけで伝わってくる独特の緊張感は、あのサメの存在感をより際立たせる。 「この船では小さすぎる」 ロイ・シャイダー演じる警察署長が、初めてこの巨大なサメを目の前にしておもわず漁船の中からつぶやく。豪放なクイント船長が、体長を「25フィート(=7.6メートル)」とざっと見積もる。 このジョーズのモデルになったのが、ホオジロザメ(Carcharodon carcharias)だ。ネズミザメ目(Lamniformes)に属す種だが、1980年代に南アフリカ沖において7メートル近くに達する個体が捕獲されたそうだ。ちなみにメスのほうがオスより少し大きい事実が、この種において確認されている。 この7メートルというサイズは現生のサメの種を見渡すと、なかなかのものだ。例えば日本近郊でよくみられる獰猛なアオザメは大きなもので体長4メートル。独特のハンマーのような頭を持つシュモクザメの中には6メートルに達する個体もいる。 ジンベエザメが現生の魚の中で断トツに一番大きい種とされる。その全長は18メートルに達することがあるが、この超ヘビー級サイズのサメはプランクトンを主に食す。そして、ホオジロザメ等の獰猛な捕食者とは全く別のテンジクザメ目ジンベエザメ科に属す。 そのためホオジロザメこそが現生の海生動物の中で「一番大きな捕食者」といえるだろう。現在の海洋における「トップ・プレデター」の地位を確立したといっていい。 とりあえずその大きな口に収まるものであれば、何でも平らげることができる。大小さまざまな魚、海ガメ、イルカ・クジラなどの海生哺乳類、同じサメの仲間たち、そして時には人間を襲う(食べる)こともある。 しかし化石記録は、このホオジロザメに匹敵する、いやそれ以上に巨大なサメの種が、太古の海洋に存在していたことを示している。 その代表例として真っ先に挙げられるのが「メガロドン(Otodus megalodon)」だ。 メガロドンはかつてカルカロクレス(Carcharocles)、またはホオジロザメと同属のカルカロドン(Carcharodon)に分類されていた。ウィキペディア等のサイトでは、いまだに前者の表記がみられる。しかし最近の研究によると「オトドゥス属」と考えられている。 このオトドゥス属だがこれまでに10種近くの化石が(いくつかの亜種とともに)確認されている。最も古い種は恐竜が絶滅した直後に当たる「新生代初期(暁新世)」に出現した。 ちなみにオトドゥスという名前は、古代ギリシャ語で「耳の形をした歯」という意味をもつ。大きく三角形の平らな形をしたメガロドンの歯にもよく当てはまる表現といえる(上の写真参照)。 メガロドンの歯の化石は、約2300万年~360万年前(中新世前期から鮮新世最初期)の世界各地の地層から発見されている。北米南部の東海岸沿いからカリブ海近郊、南米西海岸、ヨーロッパ一帯、アフリカ南部の西海岸沿い、オーストラリア南東部、ニュージーランド、そしてアジアでは日本が主な産地として知られている。 つまりメガロドンは中新世全般に及ぶ非常に長い地質年代を通し、世界各地の海洋でその他全ての海生動物種を脅かす、トップ・プレデターだったといえるだろう。