スバル車の走りはいいけど水平対向は燃費悪いからなぁ……は合ってるようで間違い! 「悪燃費」の噂はどこから発生した?
スバルの水平対向が燃費性能に不満を残したままという認識は誤り
さて、問題はオーバースクエア仕様エンジンのメリットとデメリットだ。ストローク値が小さなため平均ピストン速度を抑えることができ、その結果、高速回転化が可能となることから回転馬力型のエンジンを作ることができる。純レーシングエンジンが、おしなべてオーバースクエア型となるのは、高速回転による高出力化が可能であることによる。 逆に、ボアが大きくなることで燃焼室は浅く広い形状となり、熱損失が大きくなってしまう特徴がある。要するに、熱効率の悪いエンジンということで、熱損失はそのまま燃費性能の低下につながってしまう。また、ストローク値が短いことから、タンブル流による撹拌効果が小さくなり、これも熱効率を下げる要因となっている。 もちろん、燃費性能を左右する要素はシリンダーディメンションだけでなく、制御システム(コンピューター)なども大きく影響するが、ボア値とストローク値という基本的な仕様から見た燃費性能に関しては、オーバースクエア型は不利だという客観事実を上げることができる。 では、スバルはEJ型がもつ燃費の不利を承知のまま、水平対向エンジンを使い続けてきたのだろうか。環境性能(当然、燃費性能の意味も含まれる)が直面する問題となる2010年代以降、じつは、仕様の異なるエンジンを順次送り出している。 BRZ/トヨタ86用のFA20型エンジン(ボア86mm×ストローク86mm、1998cc)を開発すると同時に、EJ型の後継となるFB型を新たにリリース。1995ccのFB20型はボア84mm×ストローク90mm、1599ccのFB16型はボア78.8mm×ストローク82mmとボア×ストローク比は1:1.07~1:1.04へと完全なロングストローク型にシフトしている。 燃費性能=二酸化炭素の排出量という関係が成り立つだけに、環境性能を最優先で考えなければいけない現代では、燃費性能の悪さは(というより環境性能をクリアできない)致命傷となり、商品性を成り立たなくしてしまう。 スバルの近代化に大きく貢献したEJ型水平対向エンジンだが、その実働期間が長かったぶんだけ、良くも悪くも、存在感は強く印象に残る。熱効率50に及ぼうかというトヨタのハイブリッド用エンジンは世界的にも別格と見てよいが、スバルの水平対向エンジンが旧態依然たる状態で燃費性能に不満を残したまま、という認識は明らかに誤りだ。
大内明彦