倒産直前企業が示す「死のサイン」 船井電機に見た予兆 危ない「倒産予備軍」の見抜き方(上)
「ヒト・カネ」で経営環境の悪化を予見するヒント
船井電機の場合は割とわかりやすい出来事があった。破産手続きが伝わる20日ほど前の2024年10月3日に、船井電機の大半の株式について、東京のネット広告会社が仮差し押さえを申請し、9月初めごろに東京地裁が認める決定を出したというニュースが流れたのだ。 2023年に買収した脱毛サロンチェーン運営会社によるネット広告代金が未納になったことが仮差し押さえ申請の理由になったと報じられた。要するに未払いの発覚だ。この時点で資金繰りに窮している状況をうかがい知ることは難しくないだろう。 2024年3月期の事業報告書には、未払い騒動の発端となった脱毛サロンチェーンを同年3月に売却したことも記載されていると伝えられた。持ち株会社制を導入して、事業多角化の先陣を切った格好で買収した脱毛サロンチェーンを約1年で売却したわけだから、収益源を広げる試みがうまく進んでいなかった様子は想像に難くない。 決算書や事業報告書には、数字のほかにも、こうした新規事業着手・撤退、機構・組織改革など、いろいろな情報が公開されている。きちんと目を通せば、「企業の実情を見通す手がかりになり得る」(内藤氏)。財務諸表とは違って、こうした動向情報は予備知識がなくても内容を理解しやすい。誰でもアクセスできる公開情報だから、興味さえ持てば、容易にヒントを得られる点でも賢く使いこなしたい。 確かに企業の内情をつかむのは難しい。船井電機のように、破綻に至るまで当該企業に勤める多くの社員すら深刻度に気付かなかったケースもあり、外部からの状況確認には限界がある。 ただ、船井電機の場合はこれまでに挙げたように、3年程度前から「ヒト・カネ」の両面で経営環境の悪化を予見するヒントのような出来事が相次いでいた。実際、帝国データバンク側では「ある程度の状況は察知していた」(内藤氏)という。 「モノ」の面でいえば、船井電機のようなメーカーの場合、製品を取り巻く事情が手がかりになりそうだ。主力商品だった液晶テレビでは国内の家電量販店の売り場でアジア各国の製品が幅を利かせ、国内勢の居場所は縮んだ。店頭を見回すだけで、国内勢の競争力ダウンは容易に感じ取れる。 かつてこの分野で存在感の大きかったシャープは2024年5月、テレビ向けの大型パネルを生産する堺市の工場稼働を止めると発表した。シャープと船井電機は全くの同業ではないが、液晶テレビを取り巻く競争が厳しさを増していることはこの発表からでも読み取れるだろう。 対象の企業だけではなく、その企業が属する業界や市場の盛衰も、当該企業の立ち位置を知る上で参考になる。業界全体が沈んでしまうような状況に至れば、その企業も生き残れない。液晶テレビと船井電機はそれに近い関係とも映る。つまり、同業他社や業界全体の浮沈に目を配っていれば、もっと早い段階で兆しを感じ取ることが可能になるといえる。