倒産直前企業が示す「死のサイン」 船井電機に見た予兆 危ない「倒産予備軍」の見抜き方(上)
中堅家電メーカーの船井電機(大阪府大東市)が選んだ突然の破産手続き申し立ては世間を驚かせた。いきなりの経営破綻は債権回収や調達・販売先維持などの面で混乱を招きがち。自分の勤め先であれば、失業のリスクにさらされる。不測の事態を避けるには、破綻を見通すスキルが求められる。信用調査会社の帝国データバンクに、危ない「倒産予備軍」の見抜き方を教わった。
大手企業では異例の手続き
船井電機のケースで意外感が強かったのは、民事再生法の申請ではなく、いきなり破産を選んだ点だろう。東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたと伝わったのは2024年10月24日だった。会社が裁判所に申し立てる通常の自己破産ではなく、申立者が法人本体ではない「準自己破産」という大手企業では異例の手続きだった。 給料日の前日に大阪府内の本社で社員向けのアナウンスがあり、事情が説明されたという。社員からすれば「寝耳に水」だっただろう。 北米市場で存在感があった。メジャーリーグに移籍した松坂大輔(当時)がレッドソックス在籍中、本拠地球場のフェンウェイパークに広告を出していたのは船井電機だった。大谷翔平がエンゼルス入りしてからはエンゼルスの本拠地球場でも広告を出していた。松坂がメジャーデビューを飾った2007年3月期の連結売上高は過去最高の3967億円を計上した。 これほど知名度の高い企業が前触れもなく破産手続きに踏み切るのは意外に映るが、帝国データバンク東京支社情報統括部情報編集課の内藤修課長は「予兆はあった」と明かす。どのような予兆があったのか、過去3年間ほどを振り返ってみる。
脱毛サロン運営会社を買収した違和感
船井電機に限らず一般論として言えば、「違和感を覚えるような新規事業・プロジェクトへの進出」は経営の軸が揺らいでいることを示す場合があると、内藤氏は第1の気付きポイントを示す。船井電機の場合、脱毛サロンを全国で運営するミュゼプラチナム(当時、東京・渋谷)を買収したと2023年4月に発表している。連結売上高の約8割を薄型テレビ事業が占めており、脱毛サロン事業を始める違和感は小さくない。 今回の破産手続きから逆算してほぼ1年半前の出来事だ。取引先の企業がこのタイミングで危うさを感じていれば、徐々に取引量を減らすといった形でリスクを減らす対応を選べただろう。「既に破綻状態が明るみに出てからではリスク軽減が難しい。先を読む判断が肝心」と内藤氏は説く。 企業内部でどのような変化が起きているのを外から見抜くのは容易ではない。しかし、「手がかりはある」(内藤氏)。例えば、プレスリリースや適時開示だ。脱毛サロン会社の買収は新聞記事になっている上、プレスリリースも発表されていた。内藤氏は「公開された情報だけでも、ある程度の動きは読み取れる」と、丹念なウオッチングを促す。