日本らしい美容の考え方とは?日本画家・定家亜由子さんや華道家・写真家の池坊専宗さんが考える「これからの美しさ」
1905年の創刊以来、『婦人画報』が幾度となく伝えてきた日本らしい美意識、文化や精神性、うつくしきもの──。それらに根差した美容の考え方や美容法、そして化粧品にも世界中が注目していることをご存じでしょうか? このたび、それを華道や茶道のように“美容道”と命名しました。美や技を磨くだけでなく、心豊かに幸福に生きること。そして人としての成長を志す、新しい美容との向き合い方です。
「これからの美しさ」って何?
日本文化や美しいものづくりに携わる方へ、まずはこれからの美しさについていま思うことをお聞きしました。多彩な視点から美のヒントをもらいましょう。
日本画家 定家亜由子さん「自然と調和することによって自分らしさが表れる」
やわらかな光とともに描かれたしなやかな花弁に心を奪われる、定家亜由子さんの日本画。 「絵を描くときには、自分がその一部になること、自然と調和することを大切にしています。花の息遣い、風の声、土の香り。五感を研ぎ澄ませて自然に身を任せることができたときに、不思議と装うことのない自分らしい線が表れてはっとすることがあります」と定家さん。 季節の移り変わりのなかで自然と一体となり衣食住を楽しんできた私たち日本人にとって、自然とともにあることは自分らしくあるために不可欠なことなのかもしれません。 「私にとって日本的な美とは、自然への畏敬の念と自然との調和。これは食や美容にも当てはまります。日本食がこんなにも心と体に滋味深く、温泉に活力をもらえるのも、私が日本の風土に育まれてきたから。自然の中の一部である自分を意識することは、現代社会で、心身ともに満たされるためのヒントかもしれません」 さだいえあゆこ●京都市立芸術大学大学院修了。同大学で非常勤講師を務めた後、作家の道に進む。伝統画材で日本の花鳥風月、特に花を描く。画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子が描く日本画の世界』(淡交社刊)。
華道家・写真家 池坊専宗さん「不完全さや儚ささえも受け入れて生かす。そこに美が生まれる」
日本の華道(いけばな)の源流ともいわれる、華道家元池坊。その若き担い手である池坊専宗さんは、花を楽しみ、花を生ける意味をさまざまな形で伝えています。 「花だけでなく、固く結んだ蕾や葉先が黄色くなって枯れゆく姿など、命の移ろいや在り方を見つめて、そこに美を見出すのがいけばなです。咲き誇る姿より、大樹の陰でもぐーっと空に向かって伸びる植物のたくましさやしなやかさにこそ心を動かされることがあります。美しさだけでなく、そこには共感があるんですね。 植物はひとつとして同じものはありません。曲がった幹を無理にまっすぐしようとするのではなく、曲がっているなりにそれを生かして使ってみよう、という考え方。自然の不完全さや儚さを受け入れて生かすというのは非常に日本的な美意識ではありますが、みんな違っていて、その違いこそが好ましくあなたらしい、という現代の美の価値観にも通じるのは興味深いです」 いけのぼうせんしゅう●華道家元池坊 次期家元池坊専好の長男として、京都に生まれる。東京大学法学部卒業。池坊青年部代表として生け花の魅力を広く伝えている。自ら生けた花を撮影し、写真としても表現する。 編集・文=石黒三惠 松永裕美(ともに婦人画報編集部) 『婦人画報』2025年1月号より