細菌の胞子が「木星や土星の氷衛星に生存」している可能性、実験結果が示唆
微生物においてさえも、生と死の境界線は紙一重のように思われる。だが、地球上で極限環境に適応する場合、ある種の細菌は首尾よく休眠状態に入り、微生物胞子として生き残ることができる。 【画像】研究室の培養皿上で増殖した細菌のコロニー 地球上では、これは特に寒冷な環境で有効だ。だが、細菌の胞子が木星や土星の氷衛星の地下の極寒条件でも生き残れるかもしれないという可能性に、宇宙生物学者は興味をそそられている。 木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスでは、この種の細菌が当初、地下海の温暖な海底で進化した可能性がある。そこから、ある種の氷火山活動によって細菌が氷地殻の底部や表面にまで運ばれ、その過程で胞子を形成したのかもしれない。 NASAジェット推進研究所(JPL)の惑星科学者エディス・ファヨールと共同研究者による研究が示唆するところによると、直観に反して、環境条件が寒冷であるほど、胞子にとってはより好ましいようだ。 ■細菌胞子は生命の構成要素か? 細菌の胞子は生命形態の1つだが、休眠状態にあると、ファヨールは取材に応じた電子メールで説明している。ファヨールによると、一部の細菌は休眠胞子状態に移行することで、環境ストレスに対応する。この胞子状態にある通常の細菌細胞は、遺伝物質の周囲に非常に丈夫な被膜を形成しているという。 胞子は、知られている中で最も耐久性の高い生命形態の1つだと、ファヨールは指摘する。ファヨールによると、胞子は、地球のあらゆる場所で見られ、増殖や成長はせず、胞子形成性の微生物の遺伝物質が保存されている。周囲がより好ましい条件になると覚醒し、増殖能力を持つ通常の細胞に戻ることもできる。 ファヨールと研究チームは、地球に生息する枯草菌(学名:Bacillus Subtilis)として知られる、過酷な環境への耐性が高い微生物に着目し、実験室で疑似太陽光の紫外線を照射した枯草菌の胞子を調べた。 ファヨールによると、枯草菌は地球上のほぼあらゆる場所で見られる細菌で、人間の腸内にも存在している。周囲の環境条件が枯草菌の活動にとって好ましくない場合、胞子化する可能性がある。枯草菌を研究対象に決めたのはそういう理由からであり、研究の目的は、氷衛星の表面における生存能力の限界に関する理解を深めることだという。