「存在する」とはどういうことか…科学と哲学の歴史から探る「ふしぎな正体」
古代ギリシャの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、アインシュタインの相対性理論まで、この世界のしくみを解き明かす大発見はどのように生まれてきたのか? 【写真】「存在する」とはどういうことなのか…科学史から探る「ふしぎな正体」 親子の対話形式でわかりやすく科学の歴史を描き出した新刊『父が子に語る科学の話』。そのユニークな特徴や、著者ヨセフ・アガシをめぐるエピソードなどについて、訳者の立花希一さんが語った特別インタビューをお届けしよう。
理論vs.理論の「熱いバトル」
『父が子に語る科学の話』は、古代ギリシャの自然哲学者タレスからアインシュタインまでの物理学の歴史を題材にして、科学とはどんな営みなのか、哲学とどうかかわるのか、宗教や俗信・迷信との違いはなにか、科学の進歩・発展の原動力はどこにあるのか……などの問いについて、父と子の問答・対話を通して、探求・解明していこうとする試みの実話です。 かつて、大学院生だった私は、著者のヨセフ・アガシに師事するため、1980年8月にイスラエルにあるテルアビブ大学に留学しました。アガシと初めて会ったとき、著書3冊と論文数本をもらいました。その中の1冊が本書でした。 実を言うと、私の留学の主な目的は、ポパーの反証主義への理解を深めることで、科学史は門外漢だったのですが、本書を読み始めたら面白くて、一気に読み終えました。息子アーロンの頭脳明晰な応答ぶりが、鮮烈な印象として残っています。 内容について、アガシは「まえがき」で、ポパーの「批判主義・反証主義」と、科学と形而上学の関係に注目するバートやコイレらの科学史を発展させて、自らの理論を構築したと述べています。 前者については、本書に登場する科学者たちの、自分の誤りを直視して素直に認めようとする態度や、他の科学者の誤りをはっきり批判する態度などに表れています。後者については、デモクリトス流の原子論、プラトン・デカルト流の渦動論や空間充満説、さらにはライプニッツの独特な「力の理論」という理論の競合のなかから、ニュートン主義と対決するファラデーの電磁気理論が生まれたという、説得力のある感動的な記述に結実しているといえるでしょう。 当時は気づきませんでしたが、あらためて読み直すと、科学史を「競合する形而上学的議論」として読み解くというアガシのやり方は、クーンの「パラダイム」理論(その時代における科学者共同体の思考スタイルを決定づける規範があるとする考え方)の適切な批判になっていると感じます。今も日本で読み継がれているクーンの『科学革命の構造』は、ポパーの反証主義批判として捉えられていましたが、それにたいする有効な反論の試みになっているのではないでしょうか。