[猫学47回目]文学と遺伝学と猫学と――初の猫学フォーラムでにゃんこを論じる(下)
危篤状態に陥ったひるね
舌だしてねむりつづける手術台の猫は新緑の世界の底に 「僕は猫の初心者で、会場の皆さんのほうが猫のベテランが多いと思います」。講義の冒頭で、穂村さんはそう話しました。 そんな猫の初心者に、いきなり試練が訪れます。ひるねが去勢手術を受ける際、麻酔のショックで危篤状態に陥ったのです。穂村さんは獣医師からの連絡を受けて、動物病院に駆けつけました。 「妻は泣きながら、ひるねにいつも聞かせていた子守歌を歌っていました。ひるねは舌をぴろんと出して、酸素吸入器のようなものを付けた状態で……。僕は何もできないので、着ていたセーターをひるねに掛けてあげました」
ひるねは幸いにも一命を取り留めます。穂村さんの話を、はらはらしながら聞いていた会場の受講者の間にホッとした空気が流れました。 「去勢はできないままですが、獣医師さんから麻酔アレルギーだと言われてしまったので、しょうがないですね。ただ、今後、麻酔が必要な何かの事態が生じたときが心配です」と穂村さん。「この一大事をきっかけに甘やかすようになってしまって、つい、ご飯やおやつを与えすぎて、太り気味なのがまた心配のたねになっているんです」 この日は、昨年11月の公開講座でゲスト講師を務めた西村亮平・東大名誉教授(獣医学)が来場しており、急きょ、マイクを渡して意見を聞きました。西村さんは「麻酔アレルギーというケースは極めてまれです。麻酔の専門医がいる動物病院がありますので、そこで判断を仰ぎ、今後の対処を検討するのがいいでしょう」と専門家ならではの助言をしてくれました。
初めて“フォーラム”と銘打った公開講座「猫学」の開催から、はや3か月が過ぎました。すでに冬の足音が近づいています。穂村さんが会場で披露してくれた短歌のうち、最後の一つを紹介して、盛夏に開かれた猫学フォーラムのダイジェストを終えることとします。 海を知らぬ仔猫の前で歯磨きをしながら真夏のひかりを思う