[猫学47回目]文学と遺伝学と猫学と――初の猫学フォーラムでにゃんこを論じる(下)
テーマ「子猫のひるねを探して」 歌人 穂村弘さん
前肢(まえあし)で触って水を確かめるまだ五月しか知らない仔猫(こねこ) 初めて飼った子猫(2023年5月生まれ)に「ひるね」と名づけた穂村さん。今年8月4日に開かれたよみうりカルチャーの公開講座「猫学(ニャンコロジー)フォーラム」(特別協賛・アニコム損害保険)では、作家の山口恵以子(えいこ)さんに続いて登壇し、ひるねと過ごした1年間を詠んだ10作を朗読。会場のスクリーンには穂村さんとひるねの日常が映し出され、短歌と猫が融合した世界が広がりました。
穂村弘(ほむら・ひろし) 歌人。1990年、歌集「シンジケート」でデビュー。「短歌の友人」で伊藤整文学賞、「鳥肌が」で講談社エッセイ賞、「水中翼船炎上中」で若山牧水賞を受賞。読売新聞夕刊で連載中の「 蛸(たこ)足ノート」が単行本として中央公論新社から2023年に刊行された。歌集やエッセイのほかに絵本や翻訳も手がけている。
短歌で子猫との1年を振り返る
真夜中の仔猫の耳をくちびるではさめばキクラゲめいた感触 このまんまポストに投函(とうかん)できそうな仔猫が掌(て)のなかで眠ってる ねこじゃらし採りに出かけて驚いた世界はねこじゃらしに充ちている
「自分の人生になかった要素が一つ加わると、世界が変わりますよね」。穂村さんは受講者にそう語りかけました。 本物のねこじゃらしで猫は喜んで遊ぶと、猫飼いのベテランの友人から聞いたため、ねこじゃらしを探しに出かけたら、近所で簡単に見つかったそうです。「ねこじゃらしが身近にたくさん生えていることは、猫を飼うまでまったく気づきませんでした。手の込んだ、値の張る玩具よりも、自然に生えているねこじゃらしのほうが、実際にひるねは好きだった。新鮮な驚きでしたね」
母親が生来の猫好きだった山口恵以子さんとは異なり、「母は生き物が苦手」だったという穂村さん。猫とふれあう機会がないまま育ちましたが、大人になると、猫好きが周りに多く、何より奥さんが猫好きでした。穂村さんも猫への関心が高まり、いつしか憧れになったそうです。 「猫に朝早く起こされて寝不足だとか、猫の毛が付くから黒い服が着られないとか。そんなグチを猫飼いの友だちから聞くと、うらやましいなあと思うんですね。電車の中で猫の毛が付いている人を見たときなんかは、つい、いいなあとつぶやいてしまう……」