東京五輪を見据え“ポスト吉田”争いがスタートした女子レスリング
明治杯全日本選抜レスリング選手権大会の最終日が29日、代々木第2体育館で行われ、3日間の大会のなかで、もっとも客席が盛り上がった試合のひとつが12時55分に始まった。ちょうどバックステージでの取材が終わったリオデジャネイロ五輪女子48kg級代表の登坂絵莉(22、東新住建)は、「優ちゃんと真優ちゃんの試合、始まった?」とすれ違う後輩たちに聞きながら、あわてて客席へ向かった。登坂が気にしていたのは、女子53kg・宮原優(22、東洋大学)と向田真優(18、至学館大学)の準決勝。この試合は、リオ五輪で4連覇を狙う吉田沙保里(33)の君臨する女子53kg級の次世代を占う試合のひとつだった。 年に2回あるレスリングの日本一を決める大会のひとつ、全日本選抜は、例年なら日本代表選考会を兼ねている。ところが、今年は8月に開催されるリオ五輪代表がすでに確定しているため、何の代表選考もかかっておらず、しかもリオ五輪代表選手は出場していない。そのため次世代、とくに4年後の東京五輪世代が力を発揮する試合が続いた。なかでも、女子53kg級には、期待の若手が何人もエントリーし、2010年ユース五輪金で2013・2014年世界ジュニア金の宮原と、2014年ユース五輪金の向田の試合は、「今の地力は宮原のほうが上かもしれないけれど、試合をしてみないとわからない」と、栄和人・強化部長が語るほど、注目の組み合わせだった。 試合開始から50秒ごろ、向田がタックルで4点を獲得すると、固唾を呑んで見守っていた客席が大きく沸いた。これまでは、技のバリエーションが多く、返し技が得意な宮原が得点していた展開だ。ところが向田は、4月入学からわずか1ヶ月で「すっかり馴染めました」という至学館大学レスリングの先輩、登坂からのアドバイス「タックルに入ったら止まらない。入ったら脚を引き上げる」を実行し、ビッグポイントへつなげた。 このあと、第1ピリオド終了間際にも1点重ねて向田はリードを5点と広げ、そのままの点差で第2ピリオドを終了。点差も開き余裕を持っていたのかと訪ねると「恐くてたまらなかった」と試合後に振り返った。安部学院高校1年生のとき、宮原との試合で、残り1秒から投げ技を決められ逆転負けしたことが忘れられずにいるからだ。 4月から至学館大学に進学した向田は、吉田や登坂だけでなく、女子63kg級・川井梨紗子、69kg級・土性沙羅、75kg級・渡利璃穏らリオ五輪代表と練習をともにする生活になった。まだ新生活になって2ヶ月ほどだが、「精神的に強くなったと思う」というように、敗戦の記憶に引きずられる恐怖をこらえることに成功した。決勝では、2013年の女子48kg級アジアジュニア金の矢後佑華(22、日大クラブ)にも低い姿勢からのタックルをきめて6-0で勝利し初優勝した。 低い位置からのタックルを得意とする向田に、技術に定評があり投げ技ももつオールラウンドプレイヤータイプの宮原。今回は準決勝で矢後に敗れたが、守りが強く返し技が得意な入江ななみ(21、九州共立大学)も女子53kg級の次世代を占う上で目が離せない。 この3人のうち、昨年6月の同大会で向田と入江は、吉田から得点し客席をどよめかせた。向田はタックルで2点奪い、入江はタックルに入ってきた吉田の推進力を利用して回り込み2点を得ている。