東京五輪を見据え“ポスト吉田”争いがスタートした女子レスリング
ほかにリオ五輪48kg級代表の登坂絵莉も53kg級の次世代選手としてあげられる。 「東京五輪は絶対に出たい」と明言している登坂は食欲旺盛で食べることが好きな影響か、気を抜くと通常体重が吉田を上回ることもある。リーチの問題から階級アップしない可能性が高いが、昨年12月の全日本選手権は53kg級で出場し優勝していることを考えると、あり得ない話ではない。 関係者に東京五輪で活躍が期待できる“ポスト吉田”を争う女子53kg級は? と尋ねると、今大会に出場しなかった高校3年生、奥野春菜(17、三重・久居高校)の名前も何度もあがった。吉田と同じ一志ジュニア教室で姉の里奈とともにレスリングを始めた春菜は、かつて吉田の父、故・栄勝さんに「東京(五輪)の頃にはいい選手に育っていると思うよ」と言わしめた逸材だ。 彼女たちは、吉田のように世界でも強さを発揮できるのか。期待の選手の名前とともにきくと「攻める選手、タックルなら世界で勝つことはできる」と口をそろえた。 「とくに向田のように低い姿勢からのタックルが得意な選手は有利。力だけではまだ、外国人選手のほうが強いと思う。でも、返し技を中心に組み立てる外国人選手は低い攻撃に弱い。吉田のように強くなるには、まだまだ筋力や持久力が足りない。練習させるとわかるけれど、吉田に対して技はかかるんだけれど、少し立つと最終的にこてんぱんにやられている。世界では勝てても、吉田のようになるにはこれからですね」(前出・栄和人) さらに、女子レスリングの強化・指導に関わる関係者の誰もが口をそろえて言うのが、女子選手特有の未来予測の難しさだ。 「女子は、まるで何かに覚醒したかのように急に成長することがある。1、2年で、まるで別人になるんですよ。2年後ならともかく、4年後の東京五輪の頃には、私たちが予想もしない選手が育っているかもしれない。いま十代でその世代の代表になっている選手には、ポテンシャルが高い選手が多い。これから楽しみにしていてください」 8月に開催されるリオ五輪で4連覇を目指す絶対女王、吉田沙保里は、五輪後の去就を明らかにしていない。東京五輪まで現役続行する可能性は十分にあるが、栄強化部長は「吉田が現役続行するか否かにかかわらず、来年は若手を日本代表にして世界選手権に出場させるつもりでいる。今日の結果から、向田がその最右翼」と試合終了後に公にしている。 吉田の圧倒的な強さに慣れてしまった人には、僅差で勝ち負けを繰り返す次世代の選手たちに物足りないかもしれない。かつては吉田も国内で山本聖子と勝ったり負けたりの熾烈な代表争いを繰り返していた。その結果、世界一になるよりも厳しい日本代表争いと呼ばれた。現在の女子53k級における次世代選手たちの争いは、その厳しい日本代表争いを彷彿とさせるものだ。この競い合いがある限り、4年後の東京五輪でも日本女子の活躍は間違いないだろう。 (文責・横森綾/フリーライター)