健全経営でマネーゲームに参戦せず、モデルクラブのルートンとロザラム 【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑧】
本拠地の収容は最大1万1千人あまりで多くの入場料収入は見込めず、2部リーグの昇格プレーオフを勝ち抜いてプレミア行きを決めた2022~23年シーズンの収入は約1840万ポンド(当時のレートで約28億9千万円)。2部クラブの平均(約3100万ポンド)の6割に過ぎなかった。それでも目先の結果より長期的かつ広い視野で物事を捉えるポリシーを貫く。 3部リーグ時代の2018年にはギャンブル系企業をスポンサーにつけないことを表明。スポーツ賭博が青少年らに及ぼす悪影響が指摘されながら、多くのチームがユニホームなどに賭博系スポンサーの名前を入れ、EFLの冠スポンサーにも大手「スカイベット」がついている中で異例の方針を採った。100万ポンド単位とされる大きな収入よりも、クラブとしての価値観を優先したスウィートCEOの「ノーと言える強さも必要」という言葉には説得力がこもる。 客席とピッチの距離が近く、古風なイングランド式のつくりが特徴の本拠地ケニルワース・ロード。スタンドの一角にクラブのエンブレムの下に「1885年創設 2008年FAに裏切られた」と書かれた大きな旗が目立つように掲出されている。勝ち点30剥奪という厳罰に屈することなく、チームを支えてきたサポーターの思いが込められており「クラブの歴史の重要な一部を表している。決してFAを非難するつもりはなく、その時代を乗り越えて、今の文化が築き上げられた象徴として掲げている」とスウィートCEO。数年後に移転を予定している新スタジアムにも飾る場所を確保しているという。
▽プレミア昇格より健全経営 EFLの最上位にあたる2部リーグはプレミア経験クラブも多く、1試合平均入場者数が約2万人という人気を誇り、欧州5大リーグ(プレミア、スペイン1部、ドイツ1部、イタリア1部、フランス1部)に次ぐ第6のリーグと称されることもある。2022~23年シーズンの総入場者数は1000万人を超え、フランス1部リーグを上回って欧州で4番目の多さだった。プレミアへの登竜門として毎シーズン熾烈な昇格争いが繰り広げられ、最後の1枠を争うプレーオフの決勝は毎年ウェンブリー競技場で開催。勝てば莫大な放映権料や降格時の救済金などにより、翌シーズンから3年間で最大3億ポンドの収入増を見込めることから「世界で最も価値の高い試合」と呼ばれる。 そんなリーグでも昇格を現実的な目標とせず、健全経営を軸としているのがロザラムだ。英中部シェフィールド近郊にある人口約7万人の街に本拠地を置き、1925年の創設から一度も最上位リーグに在籍したことがない。ポール・ダグラス最高執行責任者(COO)(61)は「われわれが欧州チャンピオンズリーグやプレミアリーグを優勝することはあり得ないし、FAカップやリーグカップも現実味はない」と割り切っている。