【名馬列伝】”任せたくなる男” とともに牝馬三冠を成し遂げたスティルインラブ。すべて「2番人気」でライバルをねじ伏せた勝負強さ
前哨戦に敗れるも、最後の一冠は”勝負強さ”を発揮
春のクラシックを完全制覇したスティルインラブは夏の休養を経てローズステークス(GⅡ、阪神・芝2000m)に出走し、アドマイヤグルーヴの5着に敗退。やや不安を抱えながら本番へ進んでいく。 迎えた秋華賞(GⅠ、京都・芝2000m)。ここでも人気の面ではアドマイヤグルーヴ(オッズ2.5倍)の後塵を拝し、オッズ3.2倍の2番人気となったスティルインラブだったが外の17番枠からスタートすると、中団の後ろ目を進み、アドマイヤグルーヴはそれを前に見ながら11番手付近を追走する。 そして、小回りである京都の内回りコースを意識して第3コーナーから馬群の外を通ってスティルインラブはスパートを開始し、直線では馬場の中央を激しく追い上げる。しかしヤマカツリリー、ピースオブワールド、マイネサマンサら逃げ・先行勢が粘りを発揮し、さらには後方からアドマイヤグルーヴが猛追して混戦となり、息詰まる追い比べが展開された。それでも終いにひと伸びしたスティルインラブがゴール寸前で前を差し切り、大外から追い込んだアドマイヤグルーヴを3/4馬身抑えて優勝。1986年のメジロラモーヌ以来17年ぶり、史上2頭目の牝馬三冠制覇を達成したのだった。 次走、エリザベス女王杯(GⅠ、京都・芝2200m)をアドマイヤグルーヴの2着としたスティルインラブは、同年のJRA賞で最優秀3歳牝馬に輝いた。その後、4~5歳時には勝利を挙げられず、惜しまれながら2005年の秋に現役を引退。翌春から生まれ故郷の下河辺牧場で繁殖牝馬となったが、キングカメハメハとの牡駒を産み落としたものの、同年7月に腸捻転による腸重積で急死。牧場のスタッフはもちろん、多くのファンを悲しませた。 多くの馬にまたがり、誠実に競馬と向き合い、スタッフと真摯にコミュニケーションを取りながら、多くの経験値を積み重ねてきた騎手の幸英明。スティルインラブは、競馬の神様が努力を惜しまないひとりのホースマンに、そっと渡した贈り物だったのだと思っている。 文●三好達彦
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