【名馬列伝】”任せたくなる男” とともに牝馬三冠を成し遂げたスティルインラブ。すべて「2番人気」でライバルをねじ伏せた勝負強さ
春のクラシック戦線は名牝エアグルーヴの仔と激突
スティルインラブは、父サンデーサイレンス、母ブラダマンテ(父Roberto)という血統で、2000年5月2日に日高の名門である下河辺牧場で誕生。その後、ノースヒルズマネジメントによって購買され、栗東トレセンの松元省一厩舎に預託された。 デビューは2歳11月末の新馬戦(阪神・芝1400m)。ここを2番手から抜け出して2着に3馬身半差を付ける圧勝で飾ると、2戦目は年明け1月の紅梅ステークス(OP、京都・芝1400m)に出走する。ここでは中団8番手から鋭い末脚を繰り出し、逃げ馬をゴール前で捉えて連勝。強い内容で勝利をものにしたスティルインラブは一躍、クラシック候補としての評判が高まった。 次走はトライアルのチューリップ賞(GⅢ、阪神・芝1600m)だった。単勝オッズ1.7倍の1番人気に推されたスティルインラブだったが、オースミハルカとの追い比べに敗れてクビ差の2着となったが、陣営は悲観するよりも初のマイル戦での落ち着いた走りに自信を深めた。 迎えた一冠目の桜花賞(GⅠ、阪神・芝1600m)は単勝3.5倍という同オッズながら、僅かな票数の差で1番人気には若葉ステークス(OP、阪神・芝2000m)で牡馬を破って優勝した名牝エアグルーヴの仔であるアドマイヤグルーヴに譲ったが、スティルインラブも絶好の状態で本番を迎えた。 好スタートを切ったスティルインラブはすんなり6番手の好位置をキープ。ライバルのアドマイヤグルーヴはダッシュがつかず、ほぼ最後方の16番手を追走した。2頭は大きな差がついた状態で直線へ向くと、スティルインラブはゴーサインを受けて前の2頭を交わして先頭に躍り出るが、インを付いたシーイズトウショウが追いすがる。 また、大外からはアドマイヤグルーヴが豪快な追い込みを見せるが、もっともスムーズな競馬をしたスティルインラブの末脚は最後まで衰えず、シーイズトウショウに1馬身半差を付けて優勝。人馬ともに初めてのGⅠ戴冠を成し遂げた。卓抜したレースセンスの良さという彼女のストロングポイントを生かし切っての勝利だった。 続く二冠目のオークス(GⅠ、東京・芝2400m)。ここで熱い支持を受けたのは、祖母ダイナカール、母エアグルーヴが制したこともあって、より距離適性がものを言いそうなアドマイヤグルーヴで、単勝オッズ1.7倍の1番人気に推された。かたやスティルインラブは桜花賞を制したにもかかわらず、オッズ5.6倍の2番人気に甘んじた。 しかし桜の女王は、初の関東遠征、初コース、初距離の壁を鮮やかに飛び越える。中団の9番手にポジションをとったスティルインラブは馬群の中をギリギリ折り合って進み、今回もスタート直後から位置を下げたアドマイヤグルーヴは15番手で、掛かり気味に追走。この折り合いの差が結果に出る。 直線へ向くと内ラチ沿いで先行馬が鍔迫り合いを繰り広げるが、その外から他馬とは違う切れ味で伸びてきたのがスティルインラブだった。内の馬群から抜け出したチューニーを捉えると、1馬身1/4差を付けて栄光のゴールを駆け抜けた。上がり33秒5は3着のシンコールビーと並ぶ最速時計を叩き出していた。なお、アドマイヤグルーヴは道中で折り合いを欠いたことが堪えたのか、7着まで追い上げるのがやっとだった。
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