「プラスチック」ファンなど客層変化に賛否、国際化で「本場」の雰囲気が薄れる懸念も 【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑩)】
プレミアリーグの発展によりイングランドのサッカー界がクリーンで明るいイメージに生まれ変わると、スタジアムを訪れる客層にも変化が見え始めた。マンチェスター・ユナイテッドの主将だったロイ・キーンが2000年に発したコメントが、その象徴として語り継がれる。 【写真】荒れて泥だらけのピッチが当たり前だったが… 選手はセレブ化、アイドル的な要素も。転換点は1990年ワールドカップ
クラブ公式テレビチャンネルのインタビューで、本拠地オールド・トラフォードにおける応援の熱量に苦言を呈し「アウェーまで足を運ぶコアなファンは素晴らしい。でもホームのファンは何杯か飲んでエビのサンドイッチを食べているだけで、ピッチ上で何が起きているのか見ていない」と、チーム内のメディアで異例ともいえる批判を展開した。(共同通信=田丸英生) ▽「エビサンドイッチ部隊」 キーンによる“口撃”の標的となったのは「ホスピタリティー」と呼ばれる、飲食サービスなどの付加価値が付いた席の観客だった。時代とともに変わりゆくスタンドの雰囲気を鋭く指摘したコメントは共感を呼び、応援よりも飲食を優先するファンを指す「エビサンドイッチ部隊」というフレーズも生まれた。 実はオールド・トラフォードには1960年代から個室の特別席を設けるなど、VIPや富裕層向けの席は昔から存在していた。スタジアムの歴史研究家で作家のサイモン・イングリス氏(69)によると、1970年代にはトットナム、アストンビラ、エバートンなどのスタジアムにも個室の「ボックス席」が導入され「スポンサーなどの企業向けにも需要があると分かってからは、それをどこまで広げるかという議論になっていった」と解説する。
1980年代にスタジアムでの事故が続き、1989年にリバプールファンがゴール裏の立ち見席で折り重なって97人が犠牲になった「ヒルズブラの悲劇」を受けて作成された報告書「テーラー・リポート」の提言によりスタジアムの改修や新設が相次ぐと、ボックス席を重要視するクラブも徐々に増えていった。 報告書の推薦を受け、スタジアムの安全管理などを統括する二つの団体のメンバーに名を連ねたイングリス氏は「90年代初頭は建設コストが比較的低かったこともあり、各クラブとも新しい試みに挑戦しやすかった。そしてプレミアリーグが誕生すると、スカイスポーツにとってテレビに映るスタジアムはきれいで魅力的な背景となる必要があった」と言う。客単価が高く入場料収入の一つの柱となる特別席、そして画面の向こう側にいる有料放送の視聴者を意識した形に多くのスタジアムが生まれ変わっていった。 ▽「プラスチック・ファン」に賛否 立ち見席を撤廃するなど安全最優先とし、スタジアムの収益化に本腰を入れ始めたことは経営面で各クラブの可能性を大きく広げた。その代償として今では「実際に試合を見に行ける層が限られるようになり、使い古された決まり文句だが一般のサポーターが割を食っている」とイングリス氏。近年は高額のチケットを購入して現地観戦するファンを「プラスチック(人工的)」「コーポレート(企業型)」「ツーリスト(観光客)」といった形容詞で分類して揶揄する声は絶えず、このような客層を対象とした「ハーフ&ハーフ」のマフラーも物議を醸す。