河村勇輝も巣立った福岡第一高男子バスケ部をゼロから作り、30年指導「勝ちながらいかに心を育てるか」
福岡・福岡第一高の男子バスケットボール部は、インターハイ(全国高校総体)で4度、ウインターカップ(現・全国高校選手権)で5度の優勝を果たした強豪だ。「勝ちながら、いかに心を育てるか」。1994年の創部以来、チームを率いてきた監督の井手口孝さん(61)は、今もコートで生徒に寄り添う。 【写真】ウインターカップで優勝を決めて喜ぶ福岡第一高の選手たち(2023年12月29日)=時事
2023年12月、高校バスケの日本一を決めるウインターカップ決勝は、4年ぶり2度目となる福岡県勢同士の戦いとなった。福岡第一高が63―53で制し、5度目の優勝を飾った。
大会前、主力選手にけが人が相次いだ。「1回戦で負けても不思議じゃない。こんな気持ちで臨むのは初めてだった」。それでも、選手たちはノーシードから粘り強く戦い抜いた。試合後、涙を浮かべてインタビューに答えた言葉に、指導者としての思いがにじんだ。「本当にバスケットは素晴らしい。高校生は素晴らしい」
野球とプロレスに夢中な少年だった。小学5年生の頃、誘われるままに入ったクラブ活動でバスケに出会う。高校卒業後は教員を目指し、一般入試で大学バスケの強豪・日本体育大に進学。周囲のレベルに圧倒される環境に身を置きながら、高校での外部コーチを買って出た。
寮生活で練習に励む傍ら、本も読んで指導メニューを組み立てた。大学卒業までコーチを務めた東京・玉川聖学院高は、都4部から2部に上がるまでに力をつけた。特待生などいない、「バスケ好き」な生徒たちと一歩ずつ積み上げていった結果だった。「あの経験が、指導の原点」と振り返る。
ゼロから作り上げた福岡第一高男子バスケ部での指導は、今年で30年になった。これまでに、米プロバスケットボール協会(NBA)入りした河村勇輝選手(23)(グリズリーズ)らが巣立った。今も100人規模の部員たちを率い、練習を見守る。
パリ五輪男子日本代表の主将を務めた富樫勇樹選手(31)の父で、新潟・開志国際高を全国屈指の実力校に育てた富樫英樹総監督(62)は日体大の同期。総監督は言う。「指導者に一番大事なのは情熱。それがチーム力につながる。あれだけの情熱を持ってチームをまとめられるのは井手口だけだと思う」