事件報道で聞く「身柄確保」とは? 「逮捕」とどう違うのか
福岡市で2月に予備校生が刺殺された事件、3月に発覚した埼玉県朝霞市で行方不明になっていた当時中学生の少女が保護された誘拐事件。この二つの事件では、容疑者は発見されても、すぐには「逮捕」されませんでした。発見当時に容疑者が怪我をしており、一旦は「身柄確保」という措置を取ったのです。なぜ警察はこのような対応を取ったのでしょうか? そもそもこの二つはどう違うのでしょうか? 【写真】刑事事件での供述調書の「任意性」とは?
逮捕状を見せて「逮捕」が一般的
まずは、普段耳にすることが多い「逮捕」から確認してみましょう。逮捕とは、警察などの捜査機関など(※)が 、容疑者の逃亡や罪証隠滅など防ぐ目的で強制的に身柄を拘束する行為をいいます。さらに、これは3つに分類され、「通常逮捕」、「緊急逮捕」、「現行犯逮捕」があります。その中で、裁判所から逮捕状を発布してもらい、容疑者を捕まえる通常逮捕が一般的です。その請求手続きは、容疑者が罪を犯したとの相当な理由があるということを警察が証拠資料として添付して立証し、裁判所に逮捕状を発布してもらうことになります。 逮捕時の手続きとしては、警察官が手続き保障の見地から逮捕状を容疑者に提示し、自身の犯罪事実を知らしめたうえで逮捕することになっています。これが、逮捕状の執行という手続きになり、この状態が法的には逮捕ということになります。すると、容疑者の身柄は当然拘束されることになり、普通は警察署の留置場に一定期間、留め置かれることになるのです。
法律上はない用語「身柄確保」
逮捕が分かったところで、それでは「身柄確保」とはどういうことなのでしょうか? 元警察官僚で警視庁刑事の経験もある弁護士法人海星事務所の澤井康生弁護士は、「報道では、身柄の“拘束”や“確保”という言い方をすると思いますが、法律上はそのような用語はありません。またそれらは厳密には逮捕状の執行ではないので“逮捕”でもありません」と前置きした上で、「身柄確保には法的な強制力がありませんが、事実上、容疑者を警察の監視下に置いている状態を意味します」と説明します。 逮捕は裁判官の逮捕状があるので強制処分としてできる一方、事実上の身柄確保は逮捕状に基づくものではないので、あくまでも任意の手段なのです。澤井弁護士は「事実上の身柄確保について相手方(容疑者)に『嫌です』と抵抗されたら、それ以降は身柄の拘束をできなくなるのです」と指摘しました。 ちなみに、身柄確保と似たような行為に「任意同行」があります。これも逮捕状はありませんので、あくまで容疑者の任意の協力意思を前提として、一緒に警察に来てもらうことになります。もちろん強制力はないので、相手方に拒否されるとできなくなってしまうのです。