事件報道で聞く「身柄確保」とは? 「逮捕」とどう違うのか
身柄を拘束する目的は?
このように強制力のない身柄の確保ですが、なぜ今回の事件では行ったのでしょうか? 澤井弁護士は「逮捕で身柄を拘束できる時間に、48時間という制限があるのが一番の大きな理由です」と話します。刑事訴訟法の第203条1項では、「司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、……被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない」とし、同条4項では「第1項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない」と規定しています。つまり、逮捕には48時間という厳格な時間的な制限があるのです。 そしてその時間内に、検察庁に身柄を送検するときに必要な、事件に関する捜査書類一式をそろえないといけません。そこでは当然、容疑者の取り調べを行い、例えば弁解録取書や供述調書をいくつも作ることになり、ものすごく時間がかかるのです。 さらに、法律上では48時間と規定されていますが、警察は実際この時間を取り調べにフルに使えるわけではありません。「被疑者の食事、休憩、睡眠時間、弁護士との接見時間もきちんと確保しないといけないので、それ以外の時間しか取り調べができません。そうすると、仮に1日8~10時間取り調べができたとしても、容疑者を取り調べられる時間は最大で20時間ほどしかないのです。(澤井弁護士)」 容疑者が怪我などをしているときに逮捕をしてしまうと、もとから取り調べ時間が少ないのにも関わらず、さらに容体次第では取り調べができないこともあり得ます。その一方、怪我などで入院していれば、容疑者が逃げ出すということも簡単ではありません。このような場合は、取り調べ時間を確保するため、すぐに逮捕ではなく警察で24時間の監視下に置いて容疑者の回復を待つのです。
自白の任意性を担保することも理由
澤井弁護士は、すぐに逮捕しない別の理由も指摘します。それは、「自白の任意性の担保」です。例えば、容疑者が入院していたり怪我をしていたりした場合に、警察が無理やり逮捕して取り調べをしたとします。澤井弁護士は「そのような過酷な状態の中で取り調べをやると、仮に容疑者が自白をして調書が作られたとしても、後で裁判になったときに自白の証拠能力が否定されることがあるのです。『実はこんな酷い怪我をしていたんですけど、その状態で無理やり取り調べをされました。その結果、自白を強要されたのです』と言われると、自白の任意性が否定され証拠能力がなくなってしまう可能性も出てくるのです」と説明します。そうなると、刑事裁判で容疑者の自白がひっくり返されてしまうこともあり、この観点からも怪我や入院している状態での取り調べはしないのです。