「民族共存」夢見た父は、あの日ハマスに捕らわれた ホロコーストから10・7奇襲へ―あるユダヤ人家族の物語
一方、イスラエル国内の世論は右傾化し、2022年末から政権を運営するのは、対パレスチナ強硬派で、ユダヤ人至上主義の極右政党と連立を組むネタニヤフ首相だ。「極右政党が主張するパレスチナ人を追い出すような政策では、敵を増やすだけで、イスラエルに未来はない」と言い切るマティさんは、自身が求める国家像と違う方向に進んでいく現状に絶望感を抱いている。 ホロコーストの悲劇を経てユダヤ人がイスラエルを建国してから5月14日で76年。建国の過程で70万人のパレスチナ人が自宅を追われるナクバ(大惨事)も発生した。現在ガザで暮らすパレスチナ人の多くも、1948年のイスラエル建国に伴い自宅を追われ、ガザへの避難を余儀なくされた難民やその子孫だ。 「ナクバはパレスチナ人にとってはユダヤ人のホロコーストのような悲劇だった。第1次中東戦争の結果生じた悲劇であり、ユダヤ人からすれば他の選択肢はなかったが、この地で共生していくためには、ユダヤ人もパレスチナ人側のナラティブ(物語)を理解する必要がある」
パレスチナ人との共生にイスラエルの未来を見るマティさんはこう付け加えた。 「父も和平の可能性を信じていたが、ハマスに拘束された今、一体何を考えているだろうか」