八王子に出現した19歳の“倒し屋”…佐々木尽が2度ダウン劣勢からの大逆転KOでユース王座防衛…次は平岡アンディと日本王座争う
武骨に左フックを振りまわす姿に、あの「平成のKOキング」と呼ばれた坂本博之氏のスタイルが重なる。 佐々木は左を警戒され、そこにパンチを合わせられる危険を承知の上で、自らの宝刀を信じて思い切りフックを振り続けた。 「わかっていたけど狙った。僕は前へ前へ出るしかない」 技術戦もいい。心理戦も面白い。 だが、なんといっても、ボクシングの醍醐味はKOである。だが、このパンチ力は授かりものである。まだ技術的には粗削りだが、佐々木は、将来、日本ボクシング界の“至宝”となれる天性のパンチ力を持つ逸材なのだ。 そのパンチ力の源泉は中学まで「一生懸命に練習した」という柔道にいきつく。中3時には都大会の60キロ以下で3位に入った初段の腕前。 「柔道のつかむ、投げるという動きがパンチを打つ動きにつながっていると思う。柔道で鍛えられた体幹が生きている」 そのパンチにさらに磨きをかけた。取り組んだのは、パンチを打つ際の理想的なフォームの追究。体重が乗り、無駄なくすべてのパワーが拳に集中される究極のフォームを中屋トレーナー曰く「1センチ、100分の1秒の単位で取り組んだ」という。 撮影した動画を何度も見ながらブレを修正。イメージ通りにパンチが打てるように目をつぶってサンドバックを打った。 多くのアスリートが追い求めるのが再現性である。ボクシングのような型にはめにくい競技では、なお理想パンチの再現は難しいが、「試合では何も考えずに打てる」ようになるまで究極フォームの再現性を求めたことで、土壇場の左フックが威力を発揮したわけである。 試合前に、この試合の勝者が、井上尚弥や村田諒太と同じトップランク社と契約している世界ランカーの平岡アンディと空位の日本スーパーライト級王座をかけて戦うことが発表されていた。会場で大橋秀行会長と一緒に観戦していたアンディは、試合後に花道からTシャツ姿で登場。リング上でマイクを持った。 「尽君、凄くいい試合だったね」 そう声をかけて「2回ダウンをとられてヒヤっとしたけど、エキサイティングなファイター。後楽園(10月19日)で待っているよ」と言うと、佐々木も「後楽園に行きます」と応じた。 「尽君は強くなっている。僕とやれば楽しい試合になる。トップランクと契約している選手として世界のことしか見えていない。ここは通過点」 アンディがそう本音を漏らすと、佐々木も「僕もあくまでも世界への通過点。ここを通り越せば世界への道が近づく、KOで倒したい」と負けていなかった。 2人は昨年2月からスパーで10回以上拳を交えている。佐々木は「押されている感じはない」というが、そのほとんどのスパーをアンディが圧倒的に支配してきた。 まだ8回戦を2試合しか経験していない佐々木が、すでにラスベガスデビューを果たし「次の次に」世界を狙おうとしているアンディに勝つのは至難の業だろう。かなりの背伸びをしたマッチメイク。中屋トレーナーも「経験よりも地位があがった。日本タイトルなんてとんでもない」と、嘆く一方で、こう続けた。