苦節12年…逆転で悲願のJ2昇格を決めたSC相模原の劇的ドラマ
相模原は後者の「理想的なスタジアムの整備」をもとに、J2クラブライセンスを申請した。相模原市を本拠地とするなでしこリーグのノジマステラ神奈川相模原、アメフトのノジマ相模原ライズ、ラグビーの三菱重工相模原ダイナボアーズとの連携で現在、JR相模原駅にほぼ隣接するアメリカ軍施設跡地に、多機能複合型フットボール専用スタジアムを建設する署名活動が展開されている。 果たして、9月28日に来シーズンのJ2クラブライセンスが交付される吉報が届いた。あとは自動昇格できる2位以内に入れば、戦う舞台を初めてJ2へ上げられる。くしくもライセンスが交付される直前になって、三浦監督も「やるしかない」と一世一代の勝負をかけていた。 ホームに今治を迎えた9月19日の第16節を1-1で引き分けた相模原は、6勝5分け5敗と勝ち切れない試合が続き、順位も9位に下げていた。昇格圏となる2位のロアッソ熊本との勝ち点差は12ポイント。けが人も絶えない状況で、敵地で同22日に行われたガイナーレ鳥取との第17節から、就任2年目の指揮官はシステムを[4-4-2]から昨シーズンの[3-5-2]へと戻した。 「チームも多少停滞していたなかでプラン変更を考え、思い切って3バックに戻しました。3バックにすることでミルトン(身長185cm)や梅井大輝(身長194cm)が入り、セットプレーにおける高さが相手の脅威にもなった。とにかく粘り強く、どんな試合でも勝ち点を少しずつ積み上げてきた結果が最終節までの負けなしに繋がったので、やはり鳥取戦がターニングポイントだったと思います」 最後に4バックで戦った今治と、敵地で再び顔を合わせた最終の第34節まで実に19連続無敗をマーク。5連勝があれば5戦連続ドローもあるなど、内訳は10勝9分けながら一歩ずつ、確実に上位陣へ肉迫。すでに優勝とJ2昇格を決めているブラウブリッツ秋田と1-1で引き分けた、13日のホーム最終戦後に行われたセレモニーで、三浦監督はファン・サポーターの前でこう宣言している。 「私はあきらめが悪い男なので、最終戦を勝って結果を待ちたい。最後の最後まで何かが起こるようにしっかりと準備して、立ち向かっていきたい」 望月氏のラブコールを受ける形で、FW高原直泰、GK川口能活と日本代表でも一時代を築いたレジェンドたちが濃密な経験を還元してきた相模原には、昨シーズンからはMF稲本潤一も在籍。ベンチ外だった最終節は敵地まで帯同し、最初の目標を成就させた喜びをチームと共有している。 ただ、J2昇格は壮大な夢への一里塚にすぎない。加えて、新型コロナウイルスの影響でカテゴリー間の降格がなかった今シーズンから一転して、来シーズンはJ1からJ2へ、そしてJ2からJ3へそれぞれ4チームずつが自動的に降格する。東京ヴェルディや横浜F・マリノス、アルビレックス新潟などでプレーし、J1での経験も豊富なキャプテン、38歳のDF富澤清太郎が表情を引き締めた。 「常に勝った者と負けた者が生まれるスポーツで、特に長野さんとは最後までわからない、ギリギリの争いを演じました。同じスポーツマンとして僕たちは彼らの思いを絶対に忘れることなく、そして背負いながらJ2という新たなステージで旋風を巻き起こしたい」 チーム力と新スタジアムを含めたホームタウンの環境が車で例えれば両輪を成し、勝ち取ったJ2への切符だからこそ大切に、そして臆せずに戦っていきたいというチーム全体の思いが伝わってくる。効果はまだある。相模原が結実させた劇的なドラマは、年内10万筆の目標まで今月1日現在で残り1万を切っている、新スタジアム建設を求める署名運動にもポジティブな影響を与えるはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)